2010年頃でしょうか。「自炊」が流行った時期がありました。これは自宅で料理のほうではなく、書籍をドキュメントスキャナで取り込むほうのもの。その頃はIT系のニュースやブログで実際に書籍自炊について採りあげる人が多いものでした。そしてこのブログでも何年か前に自炊についてのことを書いています。
しかし最近では、当時に比べてめっきり「自炊」について聞かなくなってしまったように思えます。最近自炊を扱った記事があったのですが、そこでも「過去のもの」として扱われていますし。
そういえば、私も当時は毎日のように自炊をしていたものでしたが、一応まだスキャナはPCに繋がっているものの最近は埃をかぶりがちです。
では何故、書籍の自炊は衰退していったのでしょうか。
自炊はひたすらめんどくさい
自炊は裁断とスキャンが必要ですが、裁断機でバラしてそれをドキュメントスキャナに入れてはい、終わりとはなりません。前述の記事の中でも書かれていた通り実はかなりトラブルが多く発生します。裁断からしても、ちょっと斜めに切ってしまうと、全体の角度がズレてあとで画像編集ソフトなどでの修正が必要になります(スキャナの方である程度は補正してくれるのですが)。
さらにスキャンもちょっとした埃でノイズ(縦の線など)が入ることも多く、厳密さを求める場合、かなりの手間がかかることになります。
そして何より、詰まりやすいこと。これは経年でパーツが劣化しているせいも大きいのですが、そうではなくても雑誌のように紙質の悪いものや、裁断が甘くて一部でも繋がったものはそこで紙が絡まり、中断せざるを得なくなります。この時、いちいち取り出してセットし直すのがかなりストレスが溜まるのです。
最初のうちは、部屋が広くなる快感もあって楽しいのですが、飽きてくるとだんだんめんどくさくなるのですよね。さらに一般的に販売されている電子書籍並みのクオリティを求めた場合、かなりの手間がかかり、それも後述の電子書籍普及もありめんどくさくてやめてしまった人も多いのではないでしょうか。
一時期、電子書籍代行の可否を巡って裁判になっていたのは有名です。
しかしこれ、一回スキャンスタデータを他の顧客にも使い回していたら完全に著作権的にアウトでしたけど、本当に一冊一冊スキャンしていたとしたらとても手間とのバランスが割に合わないと思うのですよね。しかも商売となってしまうと、些細なノイズでさえ許容されなくなる可能性もありますし(長く続けばそのあたりの質での揉め事も出てきただろうなあ)、結局のところ元が取れないということで遠からずどの業者も撤退していたのではないかと思います。
電子書籍の普及
自炊が叫ばれていた2010年前後といえば、まだ日本の既存出版社が電子書籍に躊躇していた頃でした。しかし現代ではそんなことを言っていられなくなり、現在刊行されている本はもとより過去に刊行された本も続々と電子書籍化しております。そして時にはセールとして定価よりもかなり安く売られるものもあります。
となると、わざわざ前述のように手間をかけて自炊するよりも、売っている電子書籍のほうをまた買ってしまっても不自然ではないでしょう。むしろそちらのほうがきちんと電子書籍として整っており、きれいなことも多いわけですし。
また、電子書籍を読むための端末が普及してきたことも大きいでしょう。スマホは言うに及ばず、Kindleなどのタブレットも安ければ数千円程度で、スペックのかなりいいものでも、一万円そこそこで買えてしまいますし。
所有書籍の整理が一段落ついた
自炊をする人の多くは、自宅に本が非常にたくさん存在して困っていた人だと思います。そこで自炊をして電子書籍化しまくったというのは当時よく聞かれました。
しかし何も本が無限にあるわけでもなく、そういった人はすでに手持ちの紙書籍の大半を処理してしまったのではないでしょうか。それは電子書籍化のほか、めんどくささの中で自炊していたら「あ、別にこれ、自炊するほどじゃないよな」と思ってしまったとか。
そして新しい本を買う場合も、一度整理した人は売っている限り電子書籍の方を選択したとしても全くおかしくないでしょう。
今でも自炊しているもの
以上は自分の経験も踏まえた推測ですが、それなりに当たっていると思います。つまりは「供給の増加もあり、手間暇と比較して自炊までする必要がなくなった」ということですね。
しかしながら自分の場合、今でもめんどくさがりながらも時間のある時に自炊しているものがあります。それは雑誌。とりわけ掲載されているものの中に、単行本化される可能性がないものが掲載されているもので、且つ電子書籍配信をされていないもの(なのでさすがに大半が単行本化される大手出版社の週刊マンガ誌などはしない)。
本当はとっておきたいのですが、雑誌というものは場所をとる上、定期的に増えてゆくものなので捨てざるを得ないのですよね
ちなみに現在でも取り込みきれずに、2013年くらいのまで残っていて、部屋の中では雑誌タワーがいくつも。これを消化出来るのはいつだろう。
それ以上貴重な本は、そもそもデータ化しないで実物として手元に持っておくし。
電子書籍サービス終了時の懸念は残る
こんな感じで「自炊」は減少してきたと思われます。これも時代の流れですし、むしろ「自炊をする手間を省けるようになった」とプラスに捉えることが出来ます。
しかし不安な点がひとつ。それは「電子書籍で配信されたもの(書籍データ)はいつまで保てるのか」ということ。
今、複数の電子書籍配信サービスがあります。しかしこれまでの歴史の中で、終了しているサービスもあり、そこで販売されたものが読めなくなっています。
IT企業というのは存亡が激しく、今隆盛を誇っている電子書籍サービスも数年後にそのままサービスを続けられているとは限りません。それは大手、すなわちAmazonやKADOKAWA、楽天、さらにはAppleやGoogleといったところでも例外ではありません(むしろ会社がなくならなくても不採算だとさっさと撤退しそうなところがいくつかあるし)。
その時に事業が引き継がれて購読が永続的に可能になればよいのですが、そうならずに購入した本が読めなくなることは今までもありました。
ですがそうなると、紙媒体のように一度買えば所有している限り半永続的に読めるという保証はなく、下手をすると数年で読めなくなってしまう可能性もあるのです。
その懸念については以前書きました。
ですが自炊は少なくとも自分が持っている限りは大丈夫ということで、それで自炊を続けている人もいるかもしれません(自分もその側面があります)。
電子書籍の普及にはそのあたりの懸念の払拭、つまりデータが版永続的に読めるという何らかの担保が必要でしょう。
さらには、電子書籍オンリーの本も多く出て来た昨今、サービス終了によって読む手段が完全に消滅してしまわないための電子書籍アーカイブシステムの仕組みも。
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