○○が売れないシリーズ&○○の若者離れシリーズの中でも、車、酒、CDと並んで四天王に入りそうな(あとテレビを加えれば「五本の指」か)くらいの「雑誌」が売れないという話題は最近よく言われます。
この度に思ったりネットでも議論されるのは、じゃあ何故雑誌が売れないかということ。これを「若者の○○離れ」という天狗の仕業としたら、それこそ問題放置の責任転嫁で何も解決しません。
■参考:
nakamorikzs.net
故に、いろいろな要因を考える必要があるでしょうが、これは唯一の要因ではなく、複合的な要素があると思われます。それこそ車が売れない、酒が売れない、CDが売れないと同じでしょう。それこそ「金がない。あっても価格と内容が見合わない(最近同じ雑誌でも昔より定価で100円くらい値上がりしててびっくりした)」、「ネットで同じ情報が入る」などなど。それと、前回も触れたように「置く場所がない」も大きいのではないかと。
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しかし、自分が思うに、雑誌に関しては特に大きなものがもう一つあると思われます。それは週刊、月刊など雑誌の主流である定期刊行物の場合、途中購読における敷居の高さがあるのではないかと。
いきなり雑誌を買ってもよくわからない(特に連載の多いもの)
これはどういうことか。一番わかりやすい例ではマンガ雑誌が挙げられます。現在、多くの雑誌では連載型ストーリーマンガがあります。しかしながらふと気まぐれに買っても、内容を把握できないのですよね。だって、それまでの話がわからないのですから。もちろん柱には「これまでのあらすじ」がありますし、ネットでざっと見ればだいたいの流れはわかります。
しかしそれで把握できるのは作品のほんの一部で、細かいところがどうなっていたのかとかは殆ど把握が出来ないのですよね。アニメ化とかでその該当作品の掲載されている雑誌を買った人とか、同じような経験をした人が多いのではないでしょうか。
ただ、これは当然作品が悪いのではありません。たとえジャンプ作品でも、全く知識のない人がいきなり読んでも多くはとまどうだけじゃないかと。そしてそれは1話完結型、たとえばジャンプで言えばこち亀でも、いきなり読めば背景(特にキャラクター)が把握しづらいので作品の全部を楽しむのは困難と思われます。今はどうか分かりませんけど、昔のこち亀とか、1年に1回くらい、作品の設定を説明するように進行する回があったような気がします(主に新年あたり)。
つまるところ、買ってもほぼ全部話の途中で読むようなものだから楽しめないことが多いが故、買われない。そして買われないし読まれないものは、同じ理由でまた買われないし読まれないという負の連鎖が続いているのではないかと。そしてこれはマンガや小説など、連載が多いものに顕著でしょうが、雑誌が定期刊行という連続性を前提としている場合、多くの雑誌に当てはまるものだとも言えるでしょう。雑誌だけではないですよね。テレビにおいての継続要素が強いもの、例えばドラマでも、1話見逃すと一気に見る気力を失うケースも多いでしょうし。
過去の連載が読めないことによる購読意欲の喪失
もちろん、昔から雑誌を新規に読むということは途中からの参入になるわけで、把握もしにくかったりと障壁は今と同じでした。じゃあ何故そこで雑誌が売れなくなったかというと、それこそやはりネットの存在が出てくるのではないでしょうか。しかしここではいつも言われているようなネットが無料だからとか、情報が早いからというのではありません。ネットには多くの場合、雑誌にない大きな利点があります。それは連載においても過去の記事、すなわちアーカイブが参照しやすいこと。
昔は相当数のマンガ雑誌を買っていた私ですが、思い出してみるとある雑誌を買わなくなったきっかけの一つとして、惰性で読んでいたものを買い忘れてしまい「ああ、先週の話がもうわからないや。じゃあもういいや」という感じで買うのを止めてしまったものもあります。当時は一号逃すと、それこそ出版社に問い合わせるとか中古や巡りをしないと前号を手に入れるのは難しい時代だったのですね。
今でこそネット通販やヤフオクでバックナンバーを手に入れることはそこまで難しくはなくなっていますが、それでも相当の労力がかかります。しかし、ネット連載だと、もちろん全部が全部ではありませんが、そのアーカイブを購読することは比較的簡単な場合が多いのですよね。あとで本として出版されるような場合でも、そこと連載までのつなぎは公開してあるなど。
雑誌の新規購読障壁が高いことは前述しましたが、それには「過去の作品を簡単に読めない」というこのような現状の出版、流通形態も大きく邪魔をしているのではないでしょうか。ネットの無かった昔ならあきらめるという選択肢しかありませんでしたが、便利なものが生まれた以上はそっちに時間を費やすと。電子書籍雑誌が普及してくれば、そういったアーカイブに金も費やす人も増えてくるのではと。
連載マンガにおける「空白の期間」とその損失
上と関連することですが、マンガ読みとして長年常々悩まされてきたことがあります。それは「既刊単行本掲載分と連載最新話の空白」。とあるマンガを雑誌をふと見たことなどで気に入って一気に過去作を見たくなったことというのは数多くあります。しかし、当然ですが雑誌に掲載されているものは余程特殊な場合を除いてはすでに刊行されている単行本には収録されていません。それどころか単行本が出ていない場合もあります。
ここで読めない空白の数話が生まれてしまい、モヤモヤとしてしまうのですよね。かといってバックナンバーを入手するのも困難ですし(それを克服するほど盛り上がったものもあったけど)、そうするとネットであらすじを検索するという本末転倒なことになっていたと。で、単行本の出る頃には熱も冷めているということも多いのですよ。しかしこれって、非常にもったいないことだと思うのです。ここで単行本と雑誌連載をつなげるようになれば、もしかしたら雑誌の購読にも繋がったかもしれないのに。
余談ですが、似たような損失を、音楽配信を拒み続けた音楽市場でもやってしまったと思います。ふと聴きたい曲の衝動が起きたのに、ネット配信などになくて衝動が消えてしまった損失がいかばかりか。
紙の雑誌の出来ないところを電子書籍で補う必要性
このようなそれまでが把握できないから売れないという負のスパイラルが雑誌の売り上げを下げているというのはかなり大きいと思われます。でも「それを楽しみ方がわからない=買わない」という「習慣の喪失」という面で見ると、他の分野でも同じことが言えるのですよね。
他にもCDを買うどころか、新しく音楽を聴く楽しみがわからない、車を乗り回しても維持費がかかるばかりで楽しみがわからない、酒を飲んでも酔うばかりで何が楽しいのかわからない等。そこに至る要因は様々でしょうが、習慣の消失が売り上げに際して大きくダメージを与えていることは確実じゃないでしょうか。
さて、これから紙媒体の雑誌が完全に消失してしまうのか、それとも電子書籍などと棲み分け出来て共存するのかはわかりません。ただ、自分としては完全になくなることはないし、そうなってほしくないとは思っています。故に、紙の雑誌がその流通形態などで出来ないことを、電子書籍が補完する形をとるべきではないかと。
特にバックナンバーを簡単に読めるようにすること、そして単行本と雑誌連載の空白期間をなくすこために電子配信を利用するというのは大いに価値のあることと考えます。もちろん現状の流通や著作権の制度では克服しなければいけないこともあるでしょうが、それこそ克服すべき大きなものの一つではないでしょうか。