空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

同人誌の市場流通力と一般コミックの市場流通力の差はどれくらいのものか

書き出したらなんだかいろいろ思いつくことが出てきてなんだか止まらなくなってしまったこのシリーズですが、たぶん今日で終わると思います。

前回は、一回のコミケでの同人誌売り上げの最大数を計算してみましたが、現在の同人誌の販売方法はイベント売りだけではありません。そう、「書店委託」というものも存在します。一応解説しますと、同人誌を「とらのあな」「メロンブックス」「まんだらけ」などの専門店に委託することです。通販などもありますが、数が多い流通といえばこれになるのではないでしょうか。

さて、どれだけ売れるかはそれこそ入荷数、販売数ともに全部違う上、制限時間もありませんので単純計算でわかるはずはありません。ただ、何を売るのにどれだけの時間がかかるのかは、だいたい求めることが出来ます。まあこれは全ての商品に言えることですが。ともあれ実際にやってみましょう。

前回書いたときに34560が理論上の最大と書きましたが、トラバやコメントなどで教えていただいたのと調べたのを合わせると、やはり2万部以上は不可能っぽいので、これを家庭最大値として計算をしてみることにします(まあキリがいいほうが計算しやすいからなんですけどね)。

さて、同人誌を委託する店というのはわりとありますが、最大クラスはやはり「とらのあな」になるでしょう。そこで他のショップには悪いですが、ここではとらのあなのみに委託された同人誌が2万部を売るために1日に必要な売り上げ、もしくは期間を考えてみましょう。

まず、とらのあなの全国店舗数は15、そしてとらのあなの営業時間はだいたいの店舗で12時間。そして20000部。これが材料となる数字。さて、これらの店舗で時間当たり公平に売れるとして(もちろん店舗により当然ばらつきはありますが、計算上の平均値として出させていただきます)、もし30日、一ヶ月で20000部を売りたいのだったら一日辺り約666冊、それを店舗で割ると44.4冊となります。つまり1日で1店舗44冊を売って、それを30日間続ければ20000部の売り上げが達成できることになります。営業時間が12時間ですので、1時間単位にすると44.4÷12で3.7冊。つまり全店舗で平均して1時間4冊売れるペースを一ヶ月続けてゆけば2万を達成できます。もうおわかりだと思いますが、その期間が2ヶ月に伸びれば約22冊(1時間に1.85冊)でもいいわけです。逆に考えて、1時間に全店舗で1冊ずつ売れていった場合、20000÷(15×12)で約111日、3ヶ月弱かかるわけです。

たしかに店単体で見れば1時間に3冊ならコミケに比べれば全然たいしたことないように思えるでしょう。ですが、大きな書店でももし雑誌以外で一日に44冊売れるのを1ヶ月続けられる本があったとしたら、かなり必死で注文するのではないでしょうか(もちろん同人誌専門店は扱う店舗が少ないという点で一般書籍とはだいぶ違いますが、たとえ一日4〜5冊を一ヶ月でも魅力だと思います)。

というわけで、たとえ書店委託という方法を使っても、2万を売るのは相当困難ではないでしょうか。


ただ、これが普通のマンガだったらどうでしょう。ぐぐると全国の書店数は約20000あるといいます。各書店で1冊置いておき、一ヶ月の間に売れればいい、としたら、全然高い壁ではないですね。ちなみにその全国20000の書店でさきほどの例みたいに一日44冊……は行き過ぎとしても1/10の一日4冊で一ヶ月売れ続ければ、264万部。ドラゴンボールクラスです。

ついでなので話を横道にそらしますが、近年のベストセラーであるリリー・フランキーの『東京タワー』は200万部らしいですが、一ヶ月で区切れば前者はひとつの本屋で100冊、つまり一日3〜4冊、そして本屋で一日一冊売れていけば100日で達成できる計算になります。ちなみに麒麟田村の『ホームレス中学生』は142万部ですから、一ヶ月なら本屋一件で一日2〜3冊、本屋で一日1冊なら73日で達成する計算になります。

もひとつおまけで言うと、このページによると『コミックビーム』は2.5万冊なので、全部の本屋に2冊置いたら行き渡らない計算になります。いいマンガ載ってる雑誌なんですけどね(ちなみに「発行部数」なので、売れている数はまた別)。そして『アフタヌーン』は、12.7万冊なので、127000÷20000で本屋だけなら6.35冊の売り上げが必要ですが、『アフタヌーン』はコンビニ(だいたい4万くらいらしい)でも売られているので、20000からさらに伸びることになります。こう考えると、現代の雑誌がコンビニ置きを重視しても全然おかしくないと思えますね。

ちなみに何度も言いますが、あくまでこれは単純な計算で出したものですので、実際に現実的なこと(配本状況とか期間とかその他もろもろ)を絡めるとかなり状況によってブレるでしょう(そもそもこんな単純計算でおさまるようなら、書店や流通、出版社は苦労しないだろうし)。


長々と語ってきましたが、要は同人誌の市場が広がってきたといっても、一般流通とはまだまだ天と地の差があるということですね。ちなみに『もう、しませんから』の2巻によると、全国流通の最低刷り部数が1万らしいので、マガジンで短期終了したマンガ、つまりジャンプで言う10週強打ち切りのものの単行本でも、同人誌のトップクラスと互角ぐらい流通する(売れるかどうかは謎)ってことになるかなと。

でも、本の流通もAmazonなどの存在で単純な書店数の計算だけでは表せないようになっていますし、同人誌も通販の普及によって(もしくはデジタルデータとして)、売る母体数を広げています。同人誌が商業流通に接近するとまではいかないにしても、どんなふうに変化してくるのかは注目に値するのではないでしょうか。まあ、今の規模だからなんとかなっているってのもあるので、これ以上大きくならない可能性、いやむしろ問題が起きて縮小する可能性でさえあるでしょうけどね。

ま、同人をやる場合はそんな儲けのことは考えるよりも、好きなことをやった方が精神的にいいですよと自称ジャンル:ゲームミュージック評論系(サークルがかなり少ない)の人間はそれなりに綺麗に落としつつ、この話を終わりたいと思います。