最近、藤子・F・不二雄の『定年退食』がますますシャレにならなくなってきているという話

本棚の整理をしていると、ついつい昔のマンガを読んでしまいます。そして今回は『藤子・F・不二雄 異色短編集』をじっくり読み直してしまいました。
そして、今回も気になったのが、以前にも書いた『定年退食』のこと。

藤子・F・不二雄SFマンガにおけるディストピアの現実化
私の場合、本棚に一度入れてしまったマンガを取り出すときは、その本の最新刊が出た時か、このようにエントリーで取りあげる時、そして急に読みたくなった時が多いです。で、上の3つによく当てはまり、本棚の前の方に置かれているのが岡崎二郎のSF作品と、藤子・F・不二雄作品だったりします。

この『定年退食』というマンガ、あちこちで名作としていろいろ書評が書かれていますが、その通り、読めば読むほど深いものだというのがわかるのです。

まず、SFでも食糧難になった時代というのはよくあります。しかしこのマンガが大きく違うところは、見た目社会が後退していないこと。養殖トンボがいて、太陽電池で動く鳥はいて、公園に行けば、倒れた時用の連絡装置まである。つまり、見た目だけでは、普通の未来なわけですね。そう、見た目だけは。

だけど、このマンガを読んだ方はご存じの通り『定年法』の制定により、一定の年齢に達することによって、社会保障を縮小、もしくは打ち切ることで社会を存続させるというシステムをとっています。つまり、老人は切り捨てられるようになっているのです。

その理由として、たしかに食糧難は大きなものでしょう。ただ、これも解せないのですよね。何故かというと、最後のほうの首相の発言。『一次定年を56歳とします。それ以上の生産人口を我が国は必要としません』というもの。

食糧難の場合、たしかに汚染地域の影響という問題はあるでしょう。しかし、問題のもうひとつには、終戦時の日本の農村のようにそれに従事する人口が足りないことがあります。故に、ここで労働人口を減らすというのは、政策としては大いに間違っているはず。ただ、本当に食料獲得方法がいくら努力しても行き詰まっているのであればそうなるかもしれませんが(実際、食糧難が叫ばれているわりには、そこそこ広い庭で農業をやっている形跡もないし)、そのわりに公園には通信手段があり、養殖トンボや太陽電池で動く動物はあるのに、汚染浄化技術や食料問題に対しての技術がそこまで追いついていないのか、となると不思議に思えます。

本当に財政をそちらに投入すれば、老人を養っていくことは不可能ではないはず。少なくとも「定年法」までひどいことにはなっていないはず(ちなみに漫画では描かれていませんが、「73歳以上の年金、食料、医療、その他一切の国家による保証を打ち切る)というのは、その時から、主人公より恵まれていないところで、医療打ち切り、食料打ち切りによる大勢の死者が出ているはずです)。

となると……そもそもこの時代では、老人のために社会制度を下げるつもりは毛頭なく、誰も言わないけど、老人は早く死ね、と言っているものでしょうね。実際、その態度を表すのが、最後、ベンチで休んでいる老人達に向かって、席を譲るようにとの言葉を普通のことのように言う若者の姿でしょう。

つまり、このマンガの一番の問題は食糧不足ではなく、老人に対しての情が、ほぼ全くなくなっていることなのではないかと。実際、定年法の改悪(73歳以上の国家補償打ち切り)後も、全く社会に動きはありません(この決定をした「奈良山首相の暗殺計画」というのが「聞いたことない」と返されるように)。

さらに穿った見方をすれば、若者が「体制への反抗」としている無髪族でさえも、実はそれ以上のことは起きず、体制の中に繰り込まれ尽くした反体制のポーズかもしれません(坊主をブームにすれば、その分の産業が削れるってのもあるし)。

ただ、このマンガでも親族が老人である主人公を心配し、なんとか養ってくれようという肉親に対する愛情はあります。ただ、その孫の世代は、最後のベンチの話のように敬意を全く持っていません。

さて最近の現実の状況を見るに、ますますシャレにならなくなっているように思えます。今ならば、社会全体としてみればまだそのようなことはまだないでしょう。実際、最近持ち出されている高齢者に対する負担増には、反発も多くありますし、高齢者に席を譲るというのも(ケースバイケースですが)当たり前の感じですし。

ただ、個別の事例(介護放棄など)を見ると、どうも『定年退食』に急速に近づいている気がしてなりません。そしてもっと恐ろしいのは、その勢いが今後弱まる可能性があまりないこと。私が老人になった50年後にも、現在はまだ生まれてきていない若い世代が同じように老人に対する親切心を持っているかというと、非常に疑問が湧いてきてしまうのですが。だって、経済的な側面だけを見ると、どう考えても負担なのですから。

しかしこれ、おそらく今、働き盛りの世代の人は、言わないまでも思っている人は多いのではないかと。故に、年金を払わず、その分自分の貯蓄に回す人なんてのも多いのでは(それが年金破綻のスパイラルになっているのはご存じの通り)。つか、年金問題は社会保険庁の不祥事と同時に、支給年齢をどんどん先送りにしたことも、信用を大幅に落とす原因になったと思われます。だってなあ、50年後には支給年齢が90歳とかになっていて、事実上支給されない可能性も考えるしなあ……。

あとこのマンガで思うのは、おそらく「定員法」を定めた奈良山首相などがその年齢になっても、同じ境遇にはならないのではないかなあということ。つまり結局は……なんだか本当に、今の利権とかの構造と似ているような。

4091920624
気楽に殺ろうよ (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉) : 藤子・F・不二雄

スポンサーリンク