数年前、『韓流ブーム』というものが流行ったと言われたことがあります。まあネット上ではマスコミの仕掛けだとかいろいろ言われていますが。私も別に周りでブームになったと思ったものはありませんでしたしね(実感したのは、せいぜい日暮里の焼肉屋でセールをしていたくらいかな)。ただ、マスコミの仕掛けであれ何であれ、実際に『冬のソナタ』はそれなりに流行っていたと思いますし、『猟奇的な彼女』は一部の映画ファンに好評だったようです。
さて、何故これらの人気が出たのかというので、マスコミではペ・ヨンジュンなどの韓流スターの魅力があったから、という宣伝をしていて、連日そういった特集がテレビで組まれました。*1しかし今思うと、たしかに一部の空港につめかけるような熱烈なファンにとってはそうでしょうが、多くの人にとっては、たとえドラマに興味があっても、韓流スターにあまり興味はなかったのではないでしょうか。それは、ペ・ヨンジュン以降、数々の韓流俳優が日本の番組に登場したり、映画に出演したりしましたが、それが売りあげに大きなプラスとなった件がほぼ皆無だったことからも言えるでしょう(逆にかなり取りこぼした例もあったと聞きます)。
では何故、『冬のソナタ』や『猟奇的な彼女』の人気が出たか。それは、話が展開が読みやすい王道、ちょっと砕けて言えばベタベタなものだったからだと考えます。
『冬のソナタ』の場合、(私も全部見ているわけではないのですが)死んだ恋人とそっくりな人と婚約者の間で揺れるという話は、日本なら80年代にありがちで、今やろうものなら「古くさい」という評価を浴びせられる話でしょう。『猟奇的な彼女』も、すれ違い恋愛というあたり、戦後のドラマ『君の名は』な感じです。しかし、日本の視聴者は、そういったベタベタなものを求めていたのではないでしょうか。
2000年あたり、1990年代から続いたトレンディドラマのインフレで、斬新な話を出さないと視聴率がとれない、というので、どんどん変わった方向に行ってしまった感じがあります(たとえば『もう誰も愛さない』なんて、登場人物死にまくりのものとか、不倫を舞台にした『高校教師』とか『聖者の行進』とか、で、その後食べるのを争う『フードファイト』とか)。しかし、そこに昔ならではの王道的な『冬のソナタ』が登場します。これは先述の通り日本だったら「古くさい」と企画で切り捨てられたものでしょう。しかし、それは韓国という、外国のドラマだから古くても許されるところがあったでしょう。で、それを放映したら人気が出たのは、その王道ベタベタの恋愛話だったから。つまりドラマの懐古的な欲求が、その当時入ってきた韓国のドラマと合ったのではないでしょうか。
『水戸黄門』では、石坂浩二が水戸黄門になった時、今までのマンネリを崩す水戸黄門の話となり、うっかり八兵衛もいなくなり、例の印籠も必ず出るわけではなくなりました。しかし視聴者(高齢者)に不評で、視聴率がかなり下がってしまったという話。で、里見浩太朗水戸黄門時に、もとのベタベタな8時40分台に印籠なストーリーにしたら、またもとにもどったとか。このように、マンネリの展開は批判されがちですが、実はけっこう視聴者はそのマンネリが好きなのではないかと。だって、好きではないと長く続けていないわけで、マンネリになり得ませんから。言ってみれば『大いなるマンネリ』ですね。
そして、韓流ドラマも、その『大いなるマンネリ』的な恋愛展開だったために、人気が出たのではないでしょうか。しかし、それを俳優人気、国的な人気と勘違いしてしまい、ほかの韓流スターを使ったらことごとくコケてしまったというのが真相ではないかと。実際、上の2作以外に韓流のドラマ(映画)で思いつくものがないのですよね。余談ですが、日本と香港映画を除いた個人的なアジア最高の映画は『踊るマハラジャ』かな。
ただ、韓流だけではなく、これと同じような罠は最近の日本作品でも言えるのですよね。つまりそのドラマのヒットは俳優(女優)のおかげという風潮。しかし、たとえどんな俳優が出ていようとも、熱烈なファンでもない限り、話が面白くなければドラマを見ることはありません。だから本来、話の方が重要なのに、出演者ばかりで釣って、それで中身が制作者にとって注目されていないのではないかと思えることが多々あります。たしかに俳優のファンのは無条件でついてくるので、不確定な話の質よりは確実でしょうが、それにとられすぎて質が落ちるという本末転倒が起きているような気がします。
懐古主義とか言われるかもしれませんが、昔のドラマって展開がわかっていても、俳優があまり知らない人でも(子供だったしね)おもしろかったのですよね。昨日、風呂上がりにテレビがついていたので涼みながら眺めていたら、『昔の刑事ドラマ特集』をやっていたのですが、部分を見ただけでかなり食いついてしまいました。たしかにこういうの、今思えば展開はべたべたで展開が読めますし、殉職シーンなどはお涙頂戴になっていると言えるでしょう。しかしながらそれでもなお、面白いと思えるのですよね。それは、そのベタベタがわりと好きで、且つ、それを俳優が本気の演技でやっていたからではないかと。
とはいえ、いくら好きとはいえ、ベタベタもやり過ぎるとうまい料理でも食べ続けられないように飽きるので、そのへんのバランスが大事なのかもしれません。どっちにせよ「話が面白い」という大前提を忘れたら、それは作品ではないような気がします。
*1:マスコミや代理店の仕掛け、という話は、あまりにネットではあふれすぎて新しい切り口をつかめないので、ここでは割愛。