ゲームやマンガ、アニメに限らず、小説や映画、ドラマまでも*1、あらゆる年齢層に一定の人気がある話をよく聞くのが「学園もの」。この人気の理由としてよく言われているのは、「誰でも学生時代を通過してきたからイメージが湧きやすい」とか「昔出来なかったことのシミュレーションが出来るから」などと言われています。
しかし、よく考えてみるとこれは不思議なことでもあります。というのは「学校」「学園」というものはほとんどの人が経験しているにもかかわらず、その体験というのは人によってだいぶ違うはずですから。いや、個人的な体験だけではありません。たとえば大ざっぱに男子校、女子校、共学でも違う、地方によっても違う、学科によっても違う、学校の個性や重視するものによっても違うというように、かなりの場合において、見てきたものは違うはずです。最も異なるのは世代で、私の高校時代と今の高校生では、確実にいろいろな面で違いが生じているはずです。携帯電話の有無、コンピューター系授業、土曜の授業(私の時はちょうど狭間でした)等々。それなのに、今、学園ものと呼ばれるものを見たり読んだりしても、さほど抵抗は感じないのですよね。もちろん一部ゲームやマンガのように、今の学園ものが一定の年代、つまり20〜30代に向けて書かれたものだからとすることもあり、同時にそういうものもあるでしょう。そして逆にそういう年代以外に向けてのみ書かれたものもあり、それはなんとなく違和感があります(ケータイ小説とかであるかな。だけどさらにあれも、その内部、つまり学生ではない人が勘違いしつつ書いたようにしか見えないものもありますが)。しかし、不思議なことに対象とされているより前の学園もの、つまり角川映画当たりを見ても、多少の差異は感じるところはあれど、意外とすんなりと入ってゆけるのですよね。明らかに当時とはいろいろな面で違うはずなのに。
それは何故かと考えてみると、思いついたのがひとつ。つまり、小説からマンガ、アニメ、その他様々な創作物における学園というのは、そもそも現実の学園をもとに構築されたものではないんじゃないかと。いや、もちろん現実の学園と創作物の学園は違うでしょう。学園のアイドルもいなければ、その親衛隊もないし、生徒会は権力を握っているわけでもなければ、生徒会長は金持ちでもないでしょうし……(以下学園もののお約束パターン)。しかしそういうことではなく、もともとその非現実的な学園を創作物の中で構築するためのモデルとなっている学園が、すでに現実の学園とは異なるのではないかと。
これは学園に限らず、ほかのものでもあります。例えば典型的なテレビ時代劇。将軍が悪人を直接やっつけに行くとか印籠を出すと土下座するとかの実際にあり得なかったシーンはもとより、あれで描かれる江戸の町並みというのは、たしかに史実をもとにしてありますが、実際は多くの面で異なるでしょう。おそらくは衛生状態があんなよくはないところとかかな。だけど我々はそれを江戸時代の町並みのフォーマットとして受け入れています。それと同じことが、学園ものにも言えるのではないでしょうか。
つまり、学園ものでよく使われる学園イメージは、あくまで創作の歴史の中で培われた「学園」のフォーマット上に成り立つものであり、現実とは微妙に違うということ。それはマンガだけではなく、一見リアルな学園生活を描いているように見える映画やドラマでも。だけどそれ自体、現実の学園からの抽出をしているので、違和感をあまり覚えないと。
そしてこれらの抽出した要素は、各世代が共通して学園に持っているイメージを投影したものであるために、どの世代にもある程度違和感なく、自分の中にある「学園」と一致するのではないかと思うのですよね。すごく大ざっぱなキーワードで言えば「制服」「試験」「部活」「友人との交流」「恋愛」といったもの。
まあ、別にリアルでないといけないとう決まりはないわけですし、多くの人が違和感なく楽しめるのがそれなら、現実と違ってもそれが最適ではないでしょうか。というか、書いておきながら何ですが、ぶっちゃけそんなことは気にする必要は全くないと思います。まあ、たまに「実話を元に」なんて唱いながら、こういったフォーマットの学園ものが土台なっているものを見ると苦笑しますが。
ただ、ひとつだけ世代間での学園の認識を邪魔をしたものがあると思います。それが「携帯電話」。つまり昔にはなかったけど、今となっては必需品が、どうしてもギャップを生み出しかねないと。その他にも以前に書いたような問題もあり、こういった創作物においては、どうやって携帯電話を排除するか(もしくは取り込むか)というのが、今の学園ものにとっては重要な要素となっているのかもしれませんね。
■参考:携帯電話はすれ違いストーリーを難しくしたのか - 空気を読まない中杜カズサ
*1:ついでにピンク映画やAVもそうだと聞いたことがあるような。