空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

国が犯罪予告検知システムを予告.inと同等の時間や費用で作れないのは当然といえる

なんだかネットでは、予告.inが話題になっていますね。

予告.in

これが話題になったのは、機能もさることながら、総務相が数億円かかると言ったところを「0億円、2時間で作った」ということもあるのではないかと。

犯行予告収集サイト「予告.in」公開 「0億円、2時間で作った」

さて、国がどんなものを作ろうとしている、もしくは作ろうとしていたのかはわかりませんが、もし仮に予告.inと同じものを作ろうとしていた場合、はたして費用0円、とまではいかないまでも、ほんのわずかな金額で出来たでしょうか。答えはNOだと思います。それはたとえ、予告.inを作った矢野さとるさん(の会社)や、同等以上のスキルを持つ人がいる会社がそれを受注したとしても。それは何故か。いくつも理由はありますが、一番大きなものはその制作物に対して責任を伴うか、伴わないかにあると思います。

予告.inは、基本個人サイトの成果物で、無料です。*1よって、利用者はこれによってほとんど効果がなくても、そして途中でこのサイトが消滅しても文句を言うことは出来ないでしょう(一般的法規から逸脱する行為をした場合は別ですが)。だって、あくまでこれは善意で作られたものであって、「しろ」という責任による拘束をはないのですから。もちろん予告.inをはじめとして、各種制作者はフリーでもやったら放っておく、というわけではなく、不具合修正などには応じてくれることがほとんどです。ですが、それは提供してくれるという善意のうえのものですので、使い手はそれに対しての責任を強制できないはずです。逆に言えば、フリーソフトのサポートをしつこく求める人もいますが(不具合報告ならともかく)、それもどうかと思います。実際、それが鬱陶しくてバージョンアップやめちゃった人もいるみたいですしね。

しかし、「事業」として受注した場合、当然費用が払われますが、そこには「責任」が伴います。故に、契約にもよるでしょうが、修正や管理は仕事としてやらなければいけませんし、こちらの意思で途中終了するわけにもいきません。そして当然不具合が生じた時にはその責任を負って、最悪損害賠償にも発展する可能性があります。その責任の所在を明確にするために「費用」を払うのです。そして、国としてやる以上はあくまで失敗は許されず、この「責任」の所在を明確にしなければいけないのです。故に、金を払うことでそれの受注元に制作物を完成させ、適正に運用させる責任を負わせる必要があったのでしょう。*2

そして、その費用は単純に開発費やサーバ代だけではありません。当然人件費はかかりますし、ドキュメントを残すための諸費用、打ち合わせのための交通費等々、細かなところにもかなりの金がかかります.さらに、予告.inの場合、企業的に同じことをやろうとすれば、「通報する人」という不確定の要素を入れられないでしょう。仮に国営予告.inの協力者がネットであまりいなければ、効果がないシステムですし。故にその分の請負人件費も加味していたとなれば、期間によってはたしかに金がかなりかかるでしょう。

企業などでも、ほとんど同じ性能のフリーソフト(例えばOpenOfficeとMS Officeや各種セキュリティソフト)があるのに、それを使わないでわざわざパッケージソフトを使うというのは、万が一のことが起きた場合、サポートなどを含めた責任を持つところがあるかどうかという点においで、金を出して買った方が安心ということがあるのでしょうね。

ついでに、「時間」もそうですね。今回は2時間で制作ということでしたが、実際に作るとなると承認プロセス、話し合いなどでとんでもない過程を経なければいけません。ましてや国の事業ならば。しかし今回は個人で自由にやれてしまったので、2時間で出来たのでしょう。逆に、仮に個人ならどんなに時間がかかってもいいけど、業務でやる以上、たいてい「納期」という責任もかかわってくるなと。


そんなわけで、予告.inでやれたことは、あくまで費用、そして責任がかからないからやれたことであるとも言えるのですよね。ですので、国の試算と比較してそっちを非難するのは、少し対象が違うのではないかとも思うのですよね。まああの試算が高いか安いかはそっち系のプロではないのでわかりませんが、それをもって国を非難するのは違うかなあと。つか、総務相のコメントも事件が起きてからそれほど経っていない時にコメントされたものですし、この予告防止システムについても来年度予算の概算要求時に出されたものなので、見積もりも多め、発言もさらに多めの金額で言われていたと思います(言ってからそれ以上かかる、というよりは、下げたほうが印象がいいし)。おそらく仮に発注したとしても、数億も予算が出たとは限りませんしね。このへんの試算、プロの人が真面目に計算して高いか安いか判断してくれると面白いかも。


まあ、結果的に出来る人ができることをやったということで、全体にとってよかったのではないかと思います(あえて言えば、システム会社が入札or受注の機会をひとつ減らしたくらいと、一部の人の面子が削られたくらいかな)。ただ、これから先、予告.inもさまざまな問題点が出てくるでしょう(予想されるのは通報スパム)。それをどう克服するのか、そして運営をその後も続けていけるのかが焦点だと思います。*3

*1:矢野さんは会社所属ですが、その業務としてこれをやっているのではないみたいなので。

*2:まあ、これが曖昧になっているケースが多いというのはあるのですけど、それは本来いかんことでしょうし。

*3:ある程度うまく運用されたら、永続的に業務としてやってくれるところ(国の機関)に渡してしまうという可能性もあるかもしれませんね。