空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

ハーレムマンガは意外とストーリー的ハンデを抱えているように思う話

最近はマニア系のマンガ雑誌のみならず、少年誌などでも『ハーレムマンガ』といわれるものがわりと多くなってきました。作者として意図しているかにかかわらず、主人公がいて、女の子に囲まれるタイプのマンガはそう言われることが多いですね。
さて、これらのマンガ、一見読者に受けるし、話も女の子とイチャイチャさせておけばいいから、話を作るのも簡単そうと思う人はいるかもしれません(まあ実際それだけのマンガもありますし)。しかし、一時的なウケだけではなく、マンガとして面白くするためには、普通よりも枷を背負っているように思えます。

まずは、これらのマンガは主人公とヒロイン達の関係が主な要素なのにもかかわらず、だいたい恋愛事情的には先が読めてしまうということ。多くのヒロインがいても、たいていメインとなるヒロインが存在します。多いのはファーストコンタクトキャラ、もしくは幼なじみキャラですね。で、そうなると「ああ、このキャラとくっつくんだな」という予想を読者に与えてしまうのですね。まあ普通のマンガでもだいたい読める場合は多いですが(『美味しんぼ』の山岡栗田とかね)、こっちはテーマの要素が男女関係な分、先がどうなるか期待される要素のひとつを奪われてしまうというか。

そしてハーレムマンガの場合、ほかの女性キャラにも、場合によってはメインヒロイン以上の人気がつくこともあります(仮にヒロインAとする)。そしてファンの人はそのヒロインAでのラストを見たいと思う場合も多々あるでしょう。しかしストーリーをねじ曲げるわけにも行きませんから、結局はメインヒロインとの関係で進み、その結果ヒロインAのファンには不満を残す可能性があります。かといってそのキャラ中心で終えた場合、今度はメインヒロインのファンが不満を持ち、且つ話のバランスが崩れる可能性もあります。

さらに、複数ヒロインがいて主人公とそのうちの一人を結びつけるエンディングを作る場合、同時にその他のキャラとの関係をどううまく折り合わせるかも重要だと考えます。よってそのヒロインAのみならず、他のキャラとの関係をうまく描く必要があるのですよね。まあサブヒロインがラストで主人公に対して持つ感情として多いのは「(言いよってはいたけど)本当はそんなに好きじゃなかった(メインヒロインと主人公を見てあきらめまれるレベルの恋愛)」「くやしいけど仕方ない(メインヒロインと親友とか、主人公の想いに気づいたとか)」「あきらめない(その後ドタバタまだ続く)」などがありますが、今までかなり恋愛感情をよせていたキャラがいきなり冷めたりするのは不自然ですし、かといってあきらめないとそれはそれで話が収束しないし、その辺の調整はかなり難しいところではないでしょうか。故にシリーズ中盤からややそういった表現が抑えられて、主人公とメインヒロインの話が前面に出てきたり、別のヒロインに別の恋愛相手が出てきたりとかしますね。

つまりは、普通のマンガではヒロインの数がそんなに多くないので終了時にはその数少ない処理で済ませられるものを、ハーレムマンガでは女の子の多さ故に、そういった手間をかける必要が出てくるわけです。まあ(最後だからというわけでもないですが)それを放棄してしまうマンガもそれなりにあるように思えますが。(ちなみに「みんなで楽しくこのまま〜」みたいな終わり方もありますが、それも下手をすると中途半端感が漂うことが多々ありますし、難しいところです)。


ついでにもうひとつ。ハーレムマンガには、角川HD系列のマンガあたりではギャルゲーの原作もの(コミカライズ)というのも多いですが、こちらはそのマンガとして面白く見せるにはさらに困難だと思えます。というのは、ギャルゲーでは複数のヒロインがいて、それから一人を選ぶというものが多く、話もその数だけありますが、マンガでは基本的に話は一つです。となると、少なくとも結末はゲームのときに存在した話からひとつしかとれないわけです。まあだいたいは他のルートのエピソードはキャラとの恋愛まで達成しない段階あたりまでを作中で並列に扱っているのが多いですが、それはあくまでストーリーの一部でしかないのですし。さらに、ほぼ結ばれるキャラが決まっているので(99%メインヒロイン、あってもたまに人気投票トップキャラ)、結末が読めてしまうのですよね。まあこれはコミカライズ全般に言えることですが(ちなみに回避方法として、東雲版『キミキス』みたいに、各ヒロインの話を作ってしまうという手段もあるでしょう)。ですから、ゲームをふまえてさらにおもしろさを出すという壁が出来てしまうのですよ。にもかかわらず『Canvas2』のマンガみたいに評価の高いものも生まれていますし、それはやはり作り手の技量かなと。


こんなわけで、一見作りやすそうに見えるハーレム的なものも、見えにくいところではかなり苦労があると考えます。まあ、どんな場合でも話を面白くするにはそんな形のマンガであれストーリーを構築する難しさがあるってことですね。

最近では『スクールランブル!』みたいに、必ずしもメインヒロインとくっつかなくても不自然とは言えない、最後までどうなるのか読めないようなマンガも出てきましたが、これらもうまく収束してくれることを願います。*1


まあこういった恋愛的な面にかかわらず、どんなジャンルであれ、面白いマンガを作ることはいろいろ考えられているってことでしょうね。

*1:余談ですが、『ハヤテのごとく!』は基本ナギが中心でしょうが、比較的ストーリー展開次第では誰とくっついても不思議ではないというようなうまい分散をしていると思いました。