読売新聞4月12日夕刊の『お手軽執筆 ケータイ小説』という記事を読みました。ここには今、一部で流行っているらしいケータイ小説についてとりあげられていたのですが、そこで思いついたことがあるので、それについて書こうと思います。
その記事では、女子高生に人気とかいう概要や読み手の情報がまず書いてあります。まあたいていはネットで既知のことなのですが、サイトに100万件もあったというのは少し驚いています(まあ玉石混交な100万で、下手すると1行とかいうのもありそうですが)。
それに加えて、書き手、つまり携帯小説を書いて投稿している人にも取材していました。こっちがなかなか興味深い。しかし携帯電話で小説を投稿なんて、よくできるなあ……私、キーボードでないと、昨日みたいに3行の文章でもブログ書けなさそうだ。
さて、ここでどうして書くのか、というところで「すぐ読者の反応、つまり感想が来る」というのがありました。それに、「学生や主婦がいきなり人気作家になってしまうことも珍しくない」とも。これ、どこかで似たような構造があったなあ……と考えていたのですが、わかりました。もしかしたらこのケータイ小説の構造って、SS(サイドorショートストーリー)や同人と似ているのではないかと。
私は一応どちらにも書き手、読み手として参加した時期があります。SSに参加したのは、もちろんそのも元ネタが好きだったのもありますが、同時にそれをネットを通じて人に見てもらいたいという欲求もありました。そして、同じようにSSを見るのには、もちろん楽しみたかったというのもあります。同人も同じことで、見てほしい、そして読みたいという欲求があったからです。つまりは、ケータイ小説も同じく、投稿者は見てほしい、読み手はそれを見たいという欲求があるに決まってますよね。
そしてSS、同人、ケータイ小説とも、間に何か(編集者など)が入ることはなく、ダイレクトに作品が発表出来、そして読むことが出来ます(その分玉石混合なわけですが)。で、前述のように感想が届きやすいと。これにより、書き手と読み手の距離が近くなっているというのも、同じ特徴ですよね。
ここで思ったのが、もし『恋空』など人気のケータイ小説が、最初から従来と同じく形式で出版されていたら、あそこまでヒットしたか、ということ。おそらくそれなりだったのではないか、と思います(似たような話は過去30年探せば出てきそうだし)。あれは、ケータイ小説だから、注目を集めたのだと考えます。それは、ケータイサイト時代から、多くのサイトユーザーに注目を集めていたというのがあるでしょう。それと、さきほどのSSや同人と照らし合わせて考えれば、ケータイ小説ユーザー(と思っているもの)同士の仲間意識みたいなものもあるのかもしれないと考えます。同人の作品が一般作としてリリースされた場合、同人を少しでも読んでいた方ならなんとなくその作品に思い入れをしてしまうということってありませんか? それまでその作品を知っていた人なら特に。それと同じで、ケータイ小説があれだけ流行っているのも、その「ケータイ小説ユーザー同士の仲間意識みたいなもの」がある」のかもしれない、なんてことを思います。つまり、自分と同じコミュニティに属している人が出版した、だからもっと広げてあげたい、という心理が働いているのかも。ついでに言えば、商業作品と比べてやや出来が粗くても、「それが味」と許容されているのかもしれません。
つまりは、ケータイ小説は、新たな層(女子高生など)の同人小説界、と言えるのかもしれません。今、ケータイ小説が盛んなところは『モバゲータウン』ですが、ここはネット上で言えば昔よくあったSS置き場(もしくはリンク集)、もっと言えば金をとらない同人誌即売会みたいなものではないかとも思えるのです。ケータイ小説でも探せばきっとSSっぽいのもあるでしょうね。よく、出来の粗さがいろいろ言われる携帯小説ですが、同人誌にもいろいろあると考えると、別にそれはそれでいいんじゃないか、という気もしてきます。好きでやっているのでしょうし。*1
ただ、これからが問題でしょうね。このようにケータイ小説からの出版が多くなると、目新しさがなくなってきて、商業流通と大差がなくなってくるでしょう。すると、ケータイサイトのコミュニティ内はともかくとして、それが出版されると、既存の小説とまともに戦わなければならなくなります。そのとき、生き残れるかがこれからの焦点ではないでしょうか。
また、ケータイ小説サイト自体も、ますます作品が増えるに当たり大量のノイズ、つまり読むに耐えないものに埋もれてしまう可能性もあります。これは誰でも投稿できるというメリットで得たものの裏返しの宿命でしょう。だけど案外、有志によって「良作ケータイ小説まとめサイト」なんてのが出来るかもしれませんね。
*1:ただ、最近は個人で作っているフリをして、プロジェクト的にケータイ小説らしき本を出しているところもあるとかないとか。まあ、あれだけ本が売れるのでしたら、ある意味当然の流れとも言えますが