4月から10月までテレビアニメとして放映された『瀬戸の花嫁』は評判がよく、26話の放映終了後も話題になっています。
さて、この『瀬戸の花嫁』の原作はガンガンWINGで連載されていて、初めて見た時、このマンガ、どっかで見たことあるような……とは思っていたのですが、しばらく思い出せずにいました。しかし最アニメ放映時にネットを巡回していてやっとわかりました。このマンガの作者、木村太彦氏はあの『余の名はズシオ』の作者だと。これにはびっくりしました。だってあまりにも絵柄が変わっていたもので。
さて、この『余の名はズシオ』、ご存じでない方も多いでしょうが、しかし、知る人にはかなりのインパクトを残しているギャグマンガだと思います。
この作品は、1990年代末に角川書店の『少年エース』に連載されたファンタジーギャグマンガです。
一応、滅ぼされた国の王子が祖国復興のために旅をするファンタジーです。しかしそれはむしろ関係なし! そのぺージをめくる度に、ストーリーの本筋はどこへやら、とにかくギャグになります。しかもそのギャグがどれも破滅的な面白さを出しています。『瀬戸の花嫁』にも言えるのですけど、とにかくギャグのセンスがかなりものなのですな。例えば海賊船につかまった時の台詞。
底辺'Sと書いてボトムズと読む。
あと、これも木村太彦作品全般に言えることですが、とにかくどのキャラも濃いのですな。というか、普通のキャラクターがほぼ皆無です。特に主人公のズシオは脳がとれようが、大砲で吹き飛ばされようが生きています。食ったもののせいで腹を突き破って出てきたモンスターの子供を『私が母よ』と言って育てます
ある意味歴代漫画最強(元)王子です。
さらにそれを取り囲むメンツも負けず劣らず、馬は馬にまたがって登場する、姉のアンジュ姫は魔眼で人々を操りまくる等。一応ヒロインなキャラはいるのですが、『瀬戸の花嫁』の燦ちゃんが任侠キャラだったのに対して、こちらは男性風。ただ男湯に通されて広島弁になるわでヒロイン度0%。
それどころか、登場人物の壊れ気味な姫の魔眼によりヅカキャラとなってしまいます。
ちなみに瀬戸の花嫁と同じく人魚も出てきます。
ただし食われようとしていますが。この人魚が『瀬戸の花嫁』に通じていると考えると感慨深いものが……全くないです。
そして一部ですごく有名なのがこの歌。
このコマの前には「一月〜は正〜月〜で人が食えるぞオ〜」とあったり(つまり酒が飲める音頭の替え歌ね)。ちなみにこの替え歌を作ったのは姉のアンジュ姫と判明。いいセンスしてます。
ちなみにこれと同じ時期、この漫画の掲載誌である『少年エース』で四肢切断、カニバリズム、人間植木鉢など衝撃的なシーンで話題となった『多重人格探偵サイコ』が連載を開始したのと関係があるのでしょうか。おそらくないです(即答)。
話が『少年エース』に行ったので、そっちの話も出しましょうか。
この『余の名はズシオ』が連載されていたのは、少年エースが変革を迎えた時期で、『新世紀エヴァンゲリオン』の連載で一気に注目を集めていました。そしてその連載作の中にいろいろな個性派の作品が隠れていました。この作品もそのひとつです。さらにこの同時期、現在『大魔法峠』でおなじみ大和田秀樹氏が『たのしい甲子園』という同じく破滅系ギャグを描いていました。それどころか、シーマンをマンガ化して、アメリカと北朝鮮ネタをで描いたのは驚いたなあ……しかし現在は前述の通り、木村氏と同じく萌え(を被った)マンガを書いています。これは偶然なのか……
まあ、そんな革新的な漫画誌で生まれたのがこの作品です。しかし残念ながら4巻が出た時点で休載→5巻が出ないまま自然消滅となってしまいました(その後ガンガンに移籍)。
さて、この作品、『瀬戸の花嫁』とは一見だいぶ方向性が違うように見えますが、実はギャグのセンスは通じるものがあるのですよね。瀬戸花にもホモネタやらいきなり巨大化やらヒロイン男性化やらイエス!アマゾネスやら他のマンガではなかなか出てこないギャグが多数ありますし。ていうか冷静に考えると「人魚で任侠」ってコンセプトがありえないですし。
あと、個性的な面々が暴走する点も同じですね。これはそのうち別に語りますが、作者の木村太彦氏は、キャラの作り方がうまいのですよね。その暴走を生かしてギャグにしているのだと思います。まあ反動で話が破綻することもありますけど。
そんなわけで、萌えや恋愛を望む方には向かないと思いますが、ギャグを読みたい方はおすすめのマンガです。人を選ぶと思いますが、ハマれば大爆笑まちがいないです。
ちなみにもう8年前の作品で、単行本も若干Amazonなどにあるものの、入手が難しくなっています(絶対量が少ないので、古本屋でも見つけるの苦労するかも)。なので欲しい方はお早めに。あとセブンドリームにもあるみたいです。