空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

行列を意図的に作り出すことのリスク

伊集院光がラジオでたまに言うことで、行列の話というものがあります。かいつまんで説明すると、とある餃子屋には列が出来るほど客が来ている。その店主に聞くと、わざと生産のスピードを調整する(遅くする)ことで、列を途切れさせないようにしている。つまり、その列があることで人気があることを示して、また人を呼ぶという戦略があると。これに対して伊集院光氏は、それを堂々と言われるとなんだか微妙な感じがするようなことを言っていました。ついでに今話題の田中義剛牧場のキャラメルも、生産数を絞っていると聞いて微妙な感じがすると言ってましたね。これ、非常にわかります。たしかに列を作るというのは、人気のバロメータとなっていたので、昔からこのようなことが行われていたとしても、何も不思議ではありません。しかし、それを堂々と言われると本来時間をかけなくてもすむのに、その戦略につきあわされて客は時間を無駄にさせられていると聞くと、非常に微妙な気持ちになります。

しかし、この意図的に作られた行列というもの、本当に売り上げをアップさせる効果があるのでしょうか。自分の考えからすると、「現代では一時的な盛り上げにはなるけど、長期的にはマイナスになる」としか思えないのですよ。以下にその理由を書いてゆきます。

まず、列が出来ることによって、たしかにそれにつられる人が出てくることで、呼び寄せ効果はあるでしょう。そして、通常に裁いて列が出来るほどではない場合に比べたら、総売上はそれなりに増えるかもしれません。しかし、私の場合こういった列を見ると「ああ、これだけ混んでいるならいいや」とスルーしてしまうのです。まあよほどのものでしたら並びますが、そこまでのものはそれほどない。ましてや食い物なんて、もっとうまいものがある可能性は高いし。おそらく、私と同じ心理を働かせている人はけっこういるのではないでしょうか。そしてそれは、本来獲得するチャンスのあった列が無くても獲得できたであろう客層を見逃したことになります。

実はこれは大きいです。なぜなら、殆どの店の場合、列を長期間作り続けるということは難しく、ある程度経って目新しさ(ブーム)がなくなると減少してしまうのですから。もちろんそれでも行列を作り続ける店もありますが、そういうのは実力を伴っているので、むしろわざと行列を作るまでもないかと。そして列があったから並んだ客は、列が無くなれば買わなくなる可能性は高いですね。しかし最初に作った列によって、いくらかの客を逃しているわけです。そしてその中には列がなければリピーターとなりうる人さえも。

さらに私の場合、列は多くの場合「否定的なもの」として見ています。というのは、最初の餃子屋のような列調整を知っているから、人気に比例していなくて小細工をしている可能性があるのではないかという意識が芽生えているから。同じように考えている人は、けっこういるのではないでしょうか。また、列を否定するのは、わざと作っている場合だけではありません。列が出来るというのは人気があるだけではなく店の狭さ、そして客さばきの速さでその長さが変わります。実際、人気がある店でも、客さばきがうまくて、列が長くならないようにしている店というのはありますし。そして、そういう店こそ、「接客の良い店」として評価されるべきでしょう。つまり逆に言えば、列=人気があると言う要素よりも、列=客さばきが悪いととらえているからです。

もちろんそれが欲しいのもの、食べたいものなら並びますが、前述のようなことを頭の中で考えてしまうのですよね。そして列、つまり待ち時間とそこを希望する度合いを比較して、待ち時間が長いほど、そこをあきらめる可能性も高くなると。最近だと、クイズマジックアカデミーVIのロケテストで、15分並んだのが最高ですね。

そういうわけで、列を意図的に作り出して、人気獲得手段だと自慢げに誇っているのは、感情的だけではなく、経営的にもどうかと思うわけですよね。まあ、その商品で実力があるのに最初だから注目されていないものを知らせるための手段としては効果があり、実際にそこから人気となった店もあるでしょうが、それはもともと商品に魅力あってのものでしょうし、別の広報手段がうまくいけば、また成功したと思います。


さて、列と言えば1ヶ月ちょっと後にはコミケが迫っています。ここでも列がたっぷり出来ますが、必ずしもイコール人気度や売り上げとは限りません。神業のような列裁きで、列が殆ど伸びないサークルさんもありますし、逆に手際が悪くて列がなかなか進まないサークルさんもあります(実際にそれで閉場時間になっても列があり続けて問題になったケースもありますしね。搬入部数が決まっているのはそういった面もあるでしょう)。

■参考:行列の長さから販売数の比較を行うことは出来ないという話

そして意図的にしている人は滅多にいないと信じたいですが、俗に言う「牛歩」で列を作り出しても、それにより固定購買層を失っている可能性もあるでしょうね。逆に、あまり列が長くないところは、見た目はともかく売り上げが上がって、印象も含めて潜在的な購買層を増やしているとも考えられます。そういったわけで、売る人は列を作るより、細かな対応を良くしたほうが長期的に見れば良い結果を得られると思います。方法としては値段をわかりやすくする(これ、売り上げにも繋がると思います。いちいち菊の面倒でスルーする人もいるので)、釣り銭をすぐ取り出せるように用意(100円ショップのコインケースなど)。何よりそのほうが、全体的に混雑を緩和させて、参加者全員で気持ちよく過ごせますしね。

ちなみに私は、オリジナルなど注目されていないために列は出来ていないけど、自分がおもしろいと思う作品を発掘した時が一番嬉しいです。もし目的のものを買って時間が空いたら、すぐ帰らずにそういったところをざっと見てみるのをおすすめします。ラーメン屋にせよ同人誌にせよ、自分で探し出す喜びっていいものですよ。