空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

完全犯罪と呼ばれる完全犯罪は存在しない

ある意味犯罪系なので秋嵩Liblaとどっちでやろうか迷ったけど、ネタ自体はこっち向きかなあと思ったのでここで。

無限回廊さんや事件史探求さん、それに新潮45の文庫本を見ていると、「未解決事件」というのがよく出てきます。はたしてこれは推理小説で言われる「完全犯罪」と同義なのかという疑問が浮かびました。

さて、完全犯罪とは何か。goo辞書(大辞林 第二版)によると

かんぜん-はんざい くわん― 5 【完全犯罪】
犯罪であるという証拠を全く残さずに行われた犯罪。

とあります。定義は完全犯罪 - Wikipediaから借りると、

完全犯罪という語は、一般的に以下に挙げる条件の、一部または全てを満たす場合に使用される。
・犯行が露見しない
・被害者が見つからない
・加害者が判明しない
・証拠が見つからない
・トリック(犯行の手法)が見破られない
・法的に裁かれない (法の目をすり抜ける…など)
・加害者が捕まらない (時効まで逃げ切る、捜査範囲外に逃亡する、寿命を迎える…など)

犯罪者にとっては
・時効が成立する。
・裁判で無罪判決が確定する。
・まったくの別人が犯人として有罪判決が確定する。

となっています。

しかし、上の要件でも補足されているように、たとえ時効が過ぎたとしてもその犯行がわかった場合、社会的地位や名誉を失う可能性があるので、それは「完全な犯罪」とは言えなくなるでしょう。よく「完全犯罪」の例として出てくる三億円事件ですが、あれも事件が知れている以上、これから先犯人が全く判明しないという可能性は限りなく低いでしょうが0%ではありません。時効は単純に逮捕されないだけであり、見つかったらそれなりの社会的リスクを負う可能性はあるでしょう(まあこの事件の場合は殺人も傷害もないのである意味英雄視される可能性もありますが、非難する人は当然出てくるでしょうし)。となると、犯罪が起きた、と判明した時点で、たとえ時効が過ぎてもその加害者としての発覚、及びそれよるデメリットの可能性からは永遠に逃れられないこととなるでしょう。現在「完全犯罪」とよく呼ばれているものは、あくまで警察による発覚&及び逮捕を基準としたものでしかないでしょう(まあそれである意味犯人にとっては十分なのでしょうが)。

ということは、その犯罪が本当に「完全」な「犯罪」であるためには、その犯罪自体が犯罪と犯人と被害者以外に認識されない、もしくは犯罪と気づかれない必要があるのではないでしょうか。ならば、「完全犯罪」と呼ばれた事象はすでに「犯罪」と誰かにわかっているので、その時点で厳密には「完全犯罪」の要件を満たさないということになります。

では、どんなものが完全犯罪と呼ばれるものなのか。この世のどこかにはきっと誰も気づいていない犯罪や、犯罪と扱われなかった(自殺や行方不明などで処理された)犯罪というものが存在するでしょう。完全犯罪の定義からすれば、そういうものが「完全犯罪」なのでしょう。ただ、認識できないのであくまでその存在自体が予想でしかないのですが。しかし、その各事項が「完全犯罪」と呼ばれた時には、上記のように「犯罪」とわかるわけですので永遠に訴追の手(警察ではなくてもマスコミなど)から逃れられず、完全と定義するには不完全となります。故に、無限回廊さんや事件史探求さんで紹介されているものに完全犯罪は存在しないということになります。
よく推理ものでは「これは完全犯罪だ!」と序盤で言う人がいますが、たいていの場合は犯人逮捕のフラグみたいなものですしね。

となると、犯罪と認識されているものは完全犯罪ではなく、また完全犯罪の要件を備えると、それは犯罪として認識されてはいけないという、所謂パラドックスに陥るのではないでしょうか。故に、完全犯罪と呼ばれる完全犯罪は存在しないと言えると思ったわけですね。


ちなみに究極の完全犯罪というのがあるとしたら、「犯罪は存在しているにもかかわらず、それが誰にも気づかれていないもの(極論、行方不明でもないもの)」でしょうか。となると、認識的にもデータ的にも事件前と変わらず存在している必要があるかも。さらに付け加えると「被害者、そして加害者でさえその犯罪が起きたことに気づいていない」というものか? いや、むしろ「犯罪自体が起きていないもの」が完全犯罪? 

……っと、最後の方メタになるとこだった。でも、ある意味これを応用すれば新機軸の推理小説になるかも。書ける人がいればですが。*1

*1:SFなら可能かも、というかありそうだな既に。