『どうにかなる日々』を買ってみました。
このマンガ、太田出版の隔月刊マンガ『マンガ・エロティクスF』に連載されていました(オムニバスだから、また短編溜まれば出るのかな??)。
ただ、この雑誌自体エロを関しているけど、成年誌のような萌えとか陵辱みたいなエロではありません。それはスーパーバイザーに山本直樹氏、掲載作家に志村貴子さんの他、古屋兎丸氏、松苗あけみさん、青木光恵さん、鬼頭莫宏氏がいるあたりで、わかる人には「ああ、そんな感じか」とわかっていただけると思います。そのへんは『クイック・ジャパン』をかかえる太田出版らしいという感じで。
で、このマンガですが、たしかに性的描写はあるにせよ、淡々としている、というか興奮する目的よりも、話を構成するための素材として使われている感じです。しかも、このマンガはオムニバスなのですが(一部連作あり)、男×女だけではなく、女×女、そして男×男まであったりします。あと、幽霊分が多めです(2巻あとがきにその理由が描かれています)。
さて、話の方ですが、主には人対人(一部幽霊絡む)の恋愛……というか微妙な関係を表現しているものです。さて、特徴ですが、これは他の志村作品にも言えるかもしれませんが、極力無駄を排除して、その二人の世界、もしくは一人(主人公・ヒロイン)の想いや心情世界を表現することに重きが置かれているように感じます。無駄の削り方はかなり徹底され、場合によってはその主人公達の関係が何となくわかる程度で、明記されない場合もあります。例えば2巻scene5では、おそらく引退させられたプロの歌手とマネージャーの物語らしいのですが、明記はされておらず、部分的な最低限の状況だけ描かれているので、一瞬考えました。あと、その登場人物がどういう状況なのか、どういう関係なのかというのも、ほとんどの場合1台詞で何気なく言われているのですよね。まさしく日常な感じで。
そう、この作品は、まさしくその日常を切りとったような、自然に流れていきそうな世界観での人間関係(しつこいですが、部分的に幽霊との関係)が魅力です。男女関係だけではなく、百合的、薔薇的関係も、まるで自然のように描かれているのですよね。ですので、明確な盛りあがりはあまりなく、つまらないと感じる人もいるでしょうが、こういった雰囲気が好きな人にはおすすめです。
特によくできた幼なじみ系のものには弱い私は、2巻Scene8&10に出てくる、幼なじみの(だと思われる)のみかちゃんとしんの間にふと入ってきた、不思議な従兄弟の小夜子をからめた話が気に入っています。まあそれなりのエロを感じさせる(直接的ではない)シーンはあるのですが、それも自然と思えてしまうのがまた魅力。ちなみにScene8は小学生編、Scene10は中学生編ですが、10には小夜子が全く出てきてないのに、その存在に振り回されるみかちゃん(二人?)の様子が見所。例えば、中学になったみかちゃんは、ある日胸を触っていいと言いますが……
そして怒ってしまいますが、その末に(何故胸を触らせたかで)出てきた言葉、
ここでも数年前の大きな存在を強く認識してしまうあたりの心理描写がうまいです(まあそれにはお互いに理由があるのですが、これは本編で)。
そして、ラストの雰囲気も好きです。
そんなわけで、『敷居の住人』や志村貴子作品が好きな人、自然な恋愛模様が好きな人(まあ一部前述のように同性同士もありますが、性描写はほとんどないので)は読んでみてください。オムニバスなので、どっちから読んでもOK(間口が広そうな2巻のほうがいいかも)。
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