資料を探すために本棚を漁っていたら、面白い本が出てきました。
『別冊宝島』シリーズをご存じの方は多いでしょう。それの初期、まだ宝島社がJICC出版という名前の時代です。1000冊以上出ているシリーズの中でも104番と若いこの本の名前は『おたくの本』。
この本ですが、名前通り、20年前の当時は言葉が生まれたばかりの『おたく』の特集を、そのジャンル事にとりあげています。ただ、複数ライターなので、それのとりあげ方がかなり違うのですよね。基本良く(中立、客観的に)とりあげているものあれば、明らかに切り口に悪意が入っているものもあります。これには理由があり発行された時代は悪い意味でオタクが注目されてしまった時でもあるのですよね。それはこの本が出たのが1989年に、有名な東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(宮崎勤事件)が起きたため、サブカルチャー全般にバッシングが起こっていた傾向があるのです。もっとも今思うと、マスコミの露骨な扇動があったように思えますけどね。当時私は子供でしたが、毎日ワイドショーではこれでしたし。それを見越してか、ある執筆者の一人は「この本は『おたくの本』なのだそうだ。理解しがたく、わからないものに名を与え、扱いやすいものにして商品にしたり、自分とは関係ないものとして切り捨てるという、例のやり方である」と皮肉っぽいセリフも入っています(誰が書いたかは後述)。あと「それ犯罪だから」というものも混同されているのも(パンチラ盗撮とか)世相を反映しているような気がします*1。
ただ、この本にはそう言って切って捨てるだけではなく、なかなか興味深いところがあります。まずひとつめは、「ゲーマー超人伝説」で、あの田尻智氏が出ていること。わからない人のために言っておくと、田尻さんはあのポケモンの生みの親です。それより前は「ゲームフリーク」というゲーム攻略同人誌を発行するゲーマーチームの主催でした。その時(巣鴨キャロット*2時代)のことを書かれています。そしてこの数年後、田尻智の名前と開発したゲーム『ポケットモンスター』は世界中に広まると思うと感慨深いです(ただ、これが書かれた頃には『クインティ』をすでに制作されていたみたいですけどね)。ちなみにこの記事はゲームライターが書いただけあって比較的客観、中立的と思えます。
そして、最近吾妻ひでおの『失踪日記』の続編、『うつうつひでお日記』などで登場した蛭子神健氏が坊主になっているという話が、ここの時点で出ています。ただ、近年の氏の回想をどっかでみたときには「サービス発言をした」みたいなことを言ってたような。
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そして極めつけは「コミケット」について元コミケ主催の米澤嘉博氏がライターとして書かれていることです。前述の「この本は『おたくの本』なのだそうだ」の皮肉も、氏が文中で書かれたことだったりします。ここでは巨大化するコミケのことと、その内容を出来るだけ客観的に伝えようとしているのが見えて、なかなか興味深いものとなっています。
ちなみに他にも中森明夫氏の書かれた大塚英志氏と漫画ブリッコののこととか、みうらじゅんや泉麻人、京本政樹のコレクション写真ありでのインタビューや、デコチャリ、代々木駅の掲示板などなつかしいものが載っていて、当時とは別の意味、なんというかこういう時代があったんだなあという資料的な意味で面白く読めます。南緯がどう見られていて、どういう動き(規制運動とか)に繋がったのかとかも思うところが出てきます。発見するのは困難だとは思いますが、ブックオフで別冊宝島が集まっているところを探せばもしかしたらあるかも。
「オタク」と一言で言っても、時代と共にその意味合いもいろいろ変わっていくものだなあと思ったりします。さて数年後、今の状況はどのように見られているのでしょうか。