空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

日本企業において40代前半の層が薄い就職氷河期以外の原因

『「40代前半の層が薄い」人手不足に危機感』という記事が、話題になっていました。

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自分も昭和50年代生まれのいわゆるアラフォー、この世代にあたります。そして就職氷河期における就職の厳しさや、その後の仕事の範囲が狭かったことはかなり実感してきました。その理由の主たるものは、散々指摘されている通り、当時の不景気で正社員の採用を減らしたこと。そして中途採用も行ってこなかったことで、採用世代のばらつきが生じてしまったことにあるでしょう。さらに、派遣業法改正により、本来スキルを身につけさせる正社員数を減らしたことも影響が大きいと思われます。その結果、人口がピークであった年代にもかかわらず、正社員率が低い世代となってしまいました。

しかし、この記事の主旨と思われる「日本の企業に属している40代前半の層が薄い」ということになると、実はこれだけではなく、さらに数多くの原因があるように思えます。そしてそれは現在の40代前半の問題だけではなく、たとえ売り手市場である現在の30代、20代にもそのうち影響してくることとして。

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「日本企業」への意識が大きく変化した90年代末

今のアラフォーの人が学生もしくは新社会人であった1997年、それまで絶対に潰れることはないと言われていた銀行(北海道拓殖銀行)の破綻、さらに四大証券と言われた巨大企業、山一證券の自主廃業が起こります。それまでも小規模な倒産やリストラはありましたが、ここの年潰れるはずのなかったはずである会社の破綻は衝撃的でした。これ起きた年が、雇用に対する意識、すなわち「終身雇用」に対しての意識が、企業、労働者側共に大きく崩れた時だったと思います。

さらに1990年代末から2000年はじめ。この時代にはいわゆるIT革命が起こり、仕事の大きく変化を遂げます(若い人は信じれないかもしれないけど、その数年前までは、都市部のオフィスでもデスクにパソコンがない、もしくは部内で一つのパソコンを共用しているなんてことは普通にあった時代でした)。

このIT革命によって、事務人員をはじめとした雇用の抑制をしたこともこの年代に新卒となった今のアラフォーが少ない原因の一つでしょうが、逆に、この時期を境に、それまで日本の第三次産業における働き方でも圧倒的な主流であった「企業に属し、会社に通勤する」という働き方を通常とするのが崩れ始めた時期であったと思います。

これらのことがあって、それまでの世代とは、会社への帰属意識において大きな変化が起きているのではないでしょうか。

まず、今の40代の会社勤めをしている人で、このまま会社が在り続けると思っている人は昔に比べたら相当減っているのではないでしょうか。だって拓銀山一のみならず、子供の頃は有名企業だった三洋は消滅し、シャープは外資系になり、日本を代表する東芝はあんなことになっているのですから、自分のところにそれが降りかからないと思っている人は少ないでしょう。そして、一つの企業、ひいては日本の企業に属さないでも食ってゆけるように選択肢を増やしている人も少なくないでしょう。だって、もうITにより世界に労働市場が広がり、能力さえあればそこでやってゆくことが出来るための体制が整っているわけで。

 

IT革命によって働き方が変化したのは社内だけではない

更にIT革命により、働き方にも変化が生じています。そしてそれは会社に属さずともやってゆけるような仕組みも。

自分は20代の頃は企業に属し、何回か会社も職種も変えつつフリーランスになっているのですが、それは流れであり、予備知識もほとんどなかったのに続くとは思っていませんでした。しかし、家に通信が繋がったパソコンがあれば、その程度の人間でも10年近く仕事が出来てしまっているのですよね。おそらく今後はさらに進み、フリーランスや在宅ワーク、もしくは自分での起業というのは拡大してゆくと思われます。それは日本国内(つまり日本企業との関係)のみならず、海外も含めて。だってスキルさえあればITがそれをどんどん可能にしているので。

つまり、働き方の変化においても、企業に属する人の人材不足は起きていると思われます。まあもっともこれはそのフリーランスに本来社内で層が薄い仕事を発注すればいいような気もしますが、中間管理職的な業務の発注は現状難しいでしょうし、人材不足は慢性的になりますね。

このように不景気と就職氷河期の裏(もしくは表)で、一生特定の企業に属さないでも仕事をするという働き方が構築されてきているのも、「日本の企業に属している40代前半の層が薄い」という意味では大きな要因でしょう。

 

介護の問題が大きく直撃する今の40代

しかし、働き方の改革とは関係なく、むしろ企業で働きたく、さらにスキルもあるという人も多いでしょう。しかしそれでも、企業の採用にかかわらずこちらからの原因でそれが出来ないケースも現代では非常に多いと思われます。

まずひとつは「介護」。自分が30代の中盤に仕事勤めが出来なかったのは、母親が要介護状態にあったからというのもあります。それでもフリーで一応食えていたこと、そして何よりメインの介護者が父親(定年済)で、サブであり、更に外住みの兄弟なども含め2人以上で出来たというのが大きいです。もし私が1人で介護と仕事をせざるを得ない状態になっていたら、精神的、肉体的に潰れていたと断言出来ます。

しかし、現在の日本では、まさにその状況の人、つまり「介護離職」をせざるを得ないが多いのではないでしょうか。そして今では核家族化、少子化、さらには晩婚化により、その分担を引き受けられる人が少なくなっている上、病院や介護施設などの引き受け問題、さらには介護士の不足といった要因も相まって、昔より更に深刻になっているのではないでしょうか。

そして年齢的に40代は親、もしくは祖父祖母のそれが降りかかる可能性が非常に高い年代です。そしてこれはどんなスキルを持つ人材、立場のある人であろうと被る可能性がある問題です。

 

出産、育児の問題も降りかかる40代

そして介護とくれば、当然育児もあります。

この年代では不景気による経済的な要因も相まって、晩婚化が進んでいると思われます。そして女性の場合も、アラフォーあたりで初産になるというケースも、昨今では全く珍しいものではなくなりました。となると、出産→育児が言われているその年代にちょうど当たってしまう人も多いでしょう。
しかし、企業にその準備がなければ、働きながら仕事をするというのはあらゆる面で相当困難になります。実際、それなりのスキルを持ち、子育てをしながら働きたくても、その環境が整っていないので出来ない、という人も、かなりの数存在するのではないでしょうか。今社会問題になっている「待機児童」の当事者になってしまえば尚更です。しかもそれは女性ばかりではなく、「育児の手助けしたいから、行動に自由の利く働き方で」という選択をする男性が増えても自然でしょう。

考えてみれば、男性のみ勤めに出て、女性は主婦という制度は、戦前昭和中期までのように社会規模が小さいか、もしくは人口が多く、さらに経済が上向きであったが故に成立していたのだろうなと。

そしてここに対策を打たないと、更に人口不足→労働力不足の悪循環になるのは言うまでもなく。

 

そのしわ寄せは当然人口が更に減る世代にも降りかかる

さて、最初のインタビューでの続きの部分では、『ないものねだりをしても仕方ないので、若い人を早く登用して育てていきます。』という言葉もあります。つまりこのまま40代での中途をとるのではなく、採用が多かった現在の若い世代を登用するという方向のようですし、こう考える経営者も多いでしょう。

しかしながら、40代で出来てしまったその埋め合わせは、更に人口の少ない後の世代に負担をかけるということになるわけで、かなり焼け石に水のように思われます。そして今まで書いて来たような働き方、及び企業への帰属意識の変化、介護離職、育児の問題がある以上、「日本の企業に属している40代前半の層が薄い」という問題は、むしろ10年経っても解決されず、さらにそこで「日本の企業に属している30~50代の層が薄い」となる可能性も大きいと思われます。

 

 

外国からの人材獲得は同時に自国を含め外国との獲得合戦にもなる

となると、残すは現在の外国人で労働力を補うかということになります。しかし、これは「もはや頼んでも外国から人がとってこれるような状況ではなくなる(少なくとも日本語と最低限のスキルが身についているような人材は)」という可能性が非常に高いとみています。「海外に人材を求める環境」というのは、すなわち海外の企業と人材獲得合戦を繰り広げることでもあり、そして日本の人材も海外の企業にもってかれる可能性が相当あるということなので、むしろ管理が出来るような人材はマイナスになる可能性もおおいにあると思います。

管理業務と労働で少し話が変わりますが、最近は外国人実習生制度やそれを労働力とすることへの問題がよく言われています。しかしこの問題にしても、日本の海外での人材観を見ると、どうもまだバブルの頃の「金満大国であり黄金の国ニッポンにアジアの人は来て働きたいと思っている」的な意識が残っているような気がして。実際にはそれから30年以上経ち、大幅にアジアも世界も変わっているにもかかわらず。

このへんは、後日外国人実習生問題の視点から、改めて書く予定。

 

既に手遅れか

今の日本企業で40代前半の層が薄いのは、よく言われている就職氷河期やその周辺での労働制度の問題が主因だと思います。しかしながら、たとえ若手が売り手市場になっている今でも、今までと雇用体系を変えずに今の40代を飛ばしてそれ以下を育成しようとしても、うまくいくとは限らないでしょう。だって、氷河期以前と以後では、もう労働者の起業観、労働観が大きく変わっているので。そして人口減の悪循環が起きて、もう回らなくなると。

正直、40代の中途採用と教育だけでも既に間に合わない段階に来ているのではと思われます。でも、たぶんそのことは頭では多くの企業はわかっていると思うのですよね。ただ、その改革を打てないと。だってそれは、過去20年繰り返されてきたことなので。

さて、手遅れでも、そして効率が悪くても踏み込むか、このまま何もせずに進むか。そして結果はどうなるか。それは10年後、20年後に。