12月12日、テレビ東京の『ガイアの夜明け』で外国人技能実習生に降りかかっている問題に直撃しており、それが話題となっています。
「外国人技能実習制度」は外国人が最長5年間、技術を学びながら働くことを認める制度で実習生は約23万人。日本人がやりたがらない仕事の担い手として社会を支える貴重な戦力となっています。しかし給与未払いや長時間労働などの問題が・・12日(火)夜10時の放送は制度の実態に迫ります。 pic.twitter.com/zbjIDcTh3q
— ガイアの夜明け 番組公式ツイッター (@gaia_no_yoake) 2017年12月12日
ここでは、中国人技能実習生を時給換算で400円・残業197時間という状況で働かせたり、挙句は計画倒産的なことを行っていたという話。
この外国人技能実習生における問題、すなわち低い賃金、過酷な労働条件、それに加えて逃げられない状況を作るという人権侵害などは前から言われており、度々指摘がなされてきました。
ですが建前は技能の実習でも、最近では労働力の不足を補うということが隠れなくなり、そのままの体勢で進んでしまっています。
しかしながら、この問題、もうこのような経営からほど遠い日本人にとっても、もはや他人事にはなりません。というのは、ここで一部の経営者が与えてしまった悪印象は、将来日本人が被ることになりかねないので。そしてそれは特に、数十年後に生きる世代、すなわち今の若い世代が特に。
- 「外国人技能実習制度」とは何か
- 外国人技能実習制度における問題点
- 実習生の失踪
- 「労働力」としての利用を隠さなくなってきている昨今
- 外国人に対して最悪の印象を与えかねない事態
- バブルの「金持ちニッポン」観を経営者だけ未だに引きずっていないか
- 将来若い世代が喰らいかねないしっぺ返し
- まとめ
- 追記・補足
「外国人技能実習制度」とは何か
「外国人技能実習制度」というものは、字面で外国人が働きに来てるということは分かると思いますし、更に最近ニュースでその労働形態が問題がなっているということも聞いたことがある人は多いでしょうが、その詳細は知らない人もいるでしょうし、ここで簡単に説明します(分かっている人は「外国人に対して最悪の印象を与えかねない事態」まで読み流してください)。
JICTO(国際研修協力機構)によると、外国人研修制度の説明は以下の通り。
■外国人技能実習制度とは | 外国人技能実習制度の円滑な運営を支援 | JITCO - 公益財団法人 国際研修協力機構
詳細は上野リンクで説明されていますが、概要を抜き出すと、
技能実習制度の目的・趣旨は、我が国で培われた技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進です。
制度の目的・趣旨は1993年に技能実習制度が創設されて以来終始一貫している考え方であり、技能実習法には、基本理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(法第3条第2項)と記されています。技能実習制度の内容は、外国人の技能実習生が、日本において企業や個人事業主等の実習実施者と雇用関係を結び、出身国において修得が困難な技能等の修得・習熟・熟達を図るものです。期間は最長5年とされ、技能等の修得は、技能実習計画に基づいて行われます。
という感じになります。少し前までは最長3年でしたが、最近要件次第で最長5年に変更されました。
しかし、本来の主旨は「技能、技術又は知識の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進」であり、「技能実習法には、基本理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(法第3条第2項)」とあるように、労働力の確保の手段としては行われてはならないと、明確に規定されています。
しかしながら、現在のこの制度に関するニュースを見ると、経営側からそれを労働力として期待する向きが度々見られます。
この動きは、すでに3年以上前からあります。以下は介護における2014年のニュース。
最近だとコンビニも技能実習の対象に入れるようにとの動きがあります。
外国人技能実習制度における問題点
しかしながら、この外国人技能実習制度においては、労働力確保という本来の目的から外れていることのほかにも、問題点が度々指摘されてきました。主には労働問題。
過去には
・当初の約束よりも賃金が著しく低い。
・四六時中の管理で自由がない。
・休みがない。
・パスポートを預けさせられる
等の問題が生じていると、各種団体などから指摘されてきました。
そしてこれは具体的にも問題となり、勧告や裁判が起きたニュースがここ数年度々報じられていました。有名なものとしては、2014年に発覚した、川上村での過酷な労働。
■(archive)外国人技能実習生 その過酷な現実 | 国際報道2014 [特集] | NHK BS1
12月には日弁連から川上村農林業振興事業協同組合理事長、厚生労働大臣、法務大臣宛てに出された勧告。
■日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:中国人農業技能実習生に関する人権救済申立事件(勧告)
また、その他にもこの制度で来日した外国人の過酷な労働が報道されることが度々ありました。
■(archive)死亡しても会社の責任問わず フィリピン人採用で誓約書 - 47NEWS(よんななニュース)
■(archive)【茨城新聞】実習生受け入れ5年停止 残業代未払い、JAほこた27農家処分 東京入管 (2014/8/15)
■(archive)ベトナム人被告はなぜヤギを食べた 「過酷な生活」供述:朝日新聞デジタル (2015/2/19)
■「人手不足」と外国人(6)新聞は絶対書かない「留学生」の「違法新聞配達」
そして、死亡事故、更に過労死も出ています。2013年度時点で以下のようなものがあります。
■(archive)外国人技能実習生、労災とまらず千人超 過労死手続きも:朝日新聞デジタル
この問題は海外にも知られており、米国務省からも搾取的と批判が出ました。
■(archive)米報告書 外国人技能実習制度拡充を批判 NHKニュース (2014/6/21)
実習生の失踪
そして最近では、その外国人技能実習が失踪してしまう事例も多数発生しています。ちなみに平成26年には4851人に達しているとのこと。そしていったんは減少に転じたものの、また増加のペースに転じているようです。
その結果、不法就労者として仕事を求める人も出ているようです。
■(archive)NHK NEWS WEB 外国人技能実習生 失踪の実態(2015/7/29)
■(archive)岐阜県内のミャンマー人技能実習生、失踪急増 難民申請か (岐阜新聞Web) - Yahoo!ニュース (2015/8/18)
しかし、それを防止するためとして、禁止されているはずに仲介団体への保証金支払いも問題視されてきました。
■技能実習生が逃亡の際、ミャンマーの家族にも罰金を課す条項を盛り込むよう要求へ:MYANMAR★JAPON ONLINE
■(archive)保証金、禁止でもなお1割実施 厚労省の技能実習生調査:朝日新聞デジタル
仲介団体の問題(現地の団体のみならず、それに甘える日本側の問題も含め)については、『ガイアの夜明け』でも語られていたようですね。
「労働力」としての利用を隠さなくなってきている昨今
このように労働面でも賃金面でも、度々問題が指摘されてきた制度です。当然各省庁も対策を練ってはいますが、最初の報道や失踪者数の示す通り、解決に至っているとはとても言えない状況です。
にもかかわらず、昨今では以前あったような技能実習といった建前も薄れて、日本での労働力不足を補うという名目での受け入れが堂々と言われることも増えています。最近ではこのような「最低賃金可」「喜んで残業、休日出勤」と銘打ったチラシも出て来てるようです。
このように外国人の留学生に対して過酷な条件での労働を強いることになっている制度ですが、最近では以前までトップであった中国人留学生が減少傾向で、代わりにベトナム人留学生がトップになっているようです。
そして総数も増えていますが、前述の通り失踪者数も増えています。
外国人に対して最悪の印象を与えかねない事態
さて、ここからが本題。
この制度において、留学生は日本においてどのような印象を持つか、というと、それについてのアンケートがあります。
■(archive)「日本の印象良かった」97%→来日後58%に激減 ベトナム人技能実習生調査 龍谷大(1/2ページ) - 産経WEST (2015/7/29)
さらに他のニュース。
■(archive)もう、ここには来ない…日本を見限る外国人労働者 :日本経済新聞
そして最近のニューヨーク・タイムズの記事。
このように、好印象を持たれているとは言えません、というよりは、悪印象を与えています。少なくとも賃金面、労働面で今まで出て来たような過酷な状況であれば、むしろ当然と言えるでしょう。
バブルの「金持ちニッポン」観を経営者だけ未だに引きずっていないか
さて、何故このようなことが起きるのか。
ものすごく簡単に解けば、経営者が利益を得るために人件費を安くしつつ、労働生産力を増やそうとしているため、というのがぴったりでしょう。これは日本人に対してのブラック企業の仕打ちと同じですね。
しかし、この外国人技能実習生問題に関しては、もうひとつの問題があるような気がします。それは、雇用側が人材不足で雇っているにもかかわらず、「外国人を雇ってやっている」という意識があるのではないでしょうか。
この問題を見ていていつも思うのですが、もしかして雇用、経営者は、外国人実習生の母国であるアジアなどでの日本観が、いまだにバブル期の頃の「あこがれの国金持ち日本」と思っているのではないかということ。すなわち、低賃金で過酷な労働であったとしても、その金で十分だと思っていると。
これはむしろ、日本国内での外国人実習生受け入れの場だけではなく、大企業の経営陣でさえ、そしてことによればアジア南米だけではなく、欧米に対してもそう思っていると。それこそバブルの頃の感覚で。たしかにその頃は、日本で何年か働いて(おそらく不法就労)、地元である中国の田舎で大きな家一軒建てた人ってのがいたとテレビで報じられてましたし。そういえば数年前にこんな発言もありましたね。
しかし、これは30年前と異なり、大きな勘違いだというのは、冷静に日本と世界の経済状況を考えれば誰もがわかることでしょう。にもかかわらず、報じられているような労働条件と待遇であれば、割に合わないと思うでしょう。
あと、期間が最長5年であることから、最初から技能を身につけさせるのではなく、使い捨てるつもりという経営者も多いでしょう。たぶん日本人でも5年で辞めるとなれば、スキル身につけさせはしないような(というか派遣がまさにそれのような)。
将来若い世代が喰らいかねないしっぺ返し
しかし、この問題において、悪評の結果として日本人が本格的に影響を被るのは今すぐではなく、おそらく数十年後です。しかも現在過酷な条件で外国人実習生を使っている人ではなく、その当時の世代、つまり今の若者。
前から日本の将来への人口不足への対応として、移民を受け入れるか否かの論争が行われています。しかし、もうこのような状態では、本格的な人口不足になった時に、むしろ頼んでも有能な人材どころか、日本語を習得出来る人材でさえもが来てくれなくなるのではないかと思うのです。100年前の南米移民時代とは違い、世界中で多くの人がスマートフォンを持つような時代です。ですので悪評も伝わってしまうわけですから。
むしろ悪評がなかったとしても、言語習得の難しさと応用の狭さでだいぶ劣勢な日本語なわけですから、将来人材獲得合戦が世界で起こったら、これが尾を引いて圧倒的に不利になりかねません(というかすでにそうなってる気もかなり)。
まとめ
今の状況は、人材不足というピンチを切り抜けるために、将来にツケを回しつつの自転車操業的な状態になっているのではないかと思うのです。多くの人を巻き込みつつ。
故にこの問題は、 経営者ではなくとももう無視出来ないものになっているでしょう。それは留学生の人権問題はもちろんのこと、自分にも将来係る問題として。
そのために、この制度の問題点をよく考えなければいけない時期にさしかかっているのではないでしょうか。そのためにはその先、移民問題の是非も始めないといけないでしょうが、この外国人技能実習生制度の問題を根本解決しないと、そもそも望んでも、人材は来てもくれなくなるでしょうが。
ついでに言うと、日本人も待遇が低ければ、可能な人はどんどん条件のよいところに出て行くでしょう(これは日本国内にいながら海外で仕事をする場合なども含め)。グローバル化というのは、海外からのインだけではなく、海外へのアウトも行われるのが必然なので。
■関連
追記・補足
さて、最初のテレビに出てきた企業やその関連業界に批判が集まっていますが、ここで実例を様々書いてきたように、問題はその会社だけではなく、制度全体の抱える問題だということを認識して頂けると幸いです。少なくとも矢面の企業がトカゲのしっぽ切り的に攻撃されるに終わって、この問題の本質、即ちテレビに出ないところで被害に遭っている実習生の問題が解決しないとどうしようもないので。というか、この件で過酷実態を隠そうとする動きが加速しないかという懸念もちょっとあり。