『定本 消されたマンガ』(赤田祐一+ばるぼら)感想

文庫本版が出たので購入した赤田祐一+ばるぼら著『定本 消されたマンガ』(彩図社)を一通り読みました。

この手の回収騒動や自主規制といった、封印作品系の本は発見するとわりと目を通すのですが、この手のものはかなり定番決まってしまってます(例えば特撮なら『ウルトラマン』の「遊星より愛をこめて」とか)。特に近年コンビニ専売本などではだいたい予想出来る範囲。しかしこの本は名著『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』で知られるばるぼら氏と、元クイックジャパン編集長で『消えたマンガ家』にも携わっていた赤田祐一氏が書いていたこと、さらにごく最近のものも書かれているということで、期待して購入。

扱っている範囲は戦前から最近まで。『のらくろ』からスタートし、単行本未収録回のあった『さよなら絶望先生』まで。これらの本においての定番である、『ハレンチ学園』や『アシュラ』『ブラックジャック』『私立極道高校』『燃える!お兄さん』『いけない!ルナ先生』はもちろんのこと、他の書ではあまり見たことがなかった『風太郎』、『櫻画報』、『パタリロ!』『夜光虫』といったもの。さらにここ近年の『珍入社員金太郎』や『密室』『ゆび』、ネットで前ページトレースと話題になった『メガバカ』といったものなども載っています。この本では時系列でそれらを採りあげ、書いています。

ひとことで「消された」と言ってもそれらひとつひとつについて事情は異なります。やはり一番多いのは表現についてクレームを受けたもの。それも性表現であったり、差別的と受け止められたものであったりなど多数。また転載やクレジット未掲載など著作権的なものもあります。また作者が逮捕された場合なども。

それらの背景を見てゆくと社会的な動きと繋がっていることもよくあります。表現面で代表的なのは『ハレンチ学園』あたりの悪書追放運動や1990年代の有害コミック運動など。それらは今の価値観とは異なるところもかなりあり、その時における社会や思想の流れを汲み取れるところも数多くあります。

 

今までの発禁系の本はそういった抗議→回収やお詫びといったものが中心だったのですが、この本ではそれらに加えて、著作権関係でのものが新しく随所で入り込んでいる印象。これらは昔からもありましたが(巻末にサザエさんから抗議を受けたパロディ『サザエさま』の話も掲載されている)、近年はこちらのほうが増えてきているという感じ。これもまた、社会と意識の変化、さらにはネットの発展があるのかもしれません。かなりコピーで構成されていたという話の『メガバカ』だって、ネットがなければ発覚しなかった可能性もありますし、そもそもネットがなければそのようなものが作られなかったかもしれませんし。

最後のⅥ章には「証言」と題してそのような問題に巻き込まれたマンガの作者や関係者にインタビューした記事もあり、興味深いのと同時に資料的価値があります。あと、巻末に20ページにわたって表現規制の歴史年表があるのですが、これがかなり貴重な資料となる感じ(ネット上の表現規制年表がいつのまにか消えているので特に)。

 

だけど、過去に問題になったものも今なら何でもない、また注釈をつければ単行本にも掲載されるようなケースは多いことを実感します。特に性表現など当時は過激と言われていたものでも、今だとそうでもないなど。逆に今だと誰かが言うだろうなあというものもありますが、それらも改訂されたりまた元に戻ったり等変化したりも。社会の価値観、もしくはその作品への触れ方が時代により変化しているというのを感じます。

だけど時代や価値観は変化しても、表現規制の歴史は繰り返しているなとつくづく思います。この本でも有害コミック運動以降のそれ系の動きとして松文館裁判が載っていますが、昨今の東京都の健全育成条例やそれ以外の動き(主に法律絡み)を見ても。そして今までの歴史がそうであったように、ある日突然それが大きくなり、マンガのみならず表現全体を飲み込みようなものが訪れる可能性は十分ありえるということは認識すべきでしょう。また90年代のような大きな規制の波が起こってからでは遅いので。

定本 消されたマンガ

定本 消されたマンガ