空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

「アイス・バケツ・チャレンジ」で真に必要なのは氷水を被ったその先じゃないか

 今日のエントリーの主旨は以前からなんとなく考えていたことですが、おそらく今のタイミングで書くのが一番だと思うので、書くことにしました。

f:id:nakakzs:20171016010734p:plain

 

 

盛り上がりを見せる「アイス・バケツ・チャレンジ」

ここ数日、よく見るのが「氷水バケツを被った上で、ALS協会に募金する」というキャンペーンで、「アイス・バケツ・チャレンジ」と呼ばれているもの。

海外ではジャスティン・ビーバーや レディー・ガガといった有名人からIT関係者、たとえばマイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏、Facebook創設者のザッカーバーグ氏をはじめ、マイクロソフトやAT&T MobilityのCEOなど多数が参加。 

CNN.co.jp : 「氷水バケツ」の難病支援キャンペーン 有名人が続々参加

MSやT-Mobileなど各社CEOが頭から氷水--ALS認知度向上のチャリティ活動で - CNET Japan

それは日本にも伝わり、ソフトバンクの孫正義氏(@masason)、楽天三木谷氏(@hmikitani)、はてなアカウント持ちでは伊藤直也氏(@naoya_ito)も参加しています。

アイスバケツチャレンジに参加したIT業界の著名人一覧(日本含む65人) #IceBucketChallenge | nanapiマーケティングマニア

 

まず、この行為について賛成か反対かは、各人それぞれの意見があると思いますが、私としては「こういうのもアリじゃね?」といったところです。それは結果として今まであまり注目されてこなかった(と思う)ALSという病気に関して少しでも注目が集まったこと、それによって寄付も集まったことなど、やらない時よりも結果が伴っているが故。まあそろそろ氷水を被らない形でも、周知を寄付の動きが広まればいいとは思いますが。もちろん他の難病においても。

 

ただこの動き、このままいくとあと数週間で飽きられて自然消滅するというのは、今までのこの手のものから見てよくあることでしょう(そもそも1人が3人を指名するので、おのずとネズミ算式に限界が来てしまうのもあり)。しかし、それだけで終わるにはあまりに勿体ないと思うのです。

 

ALSについて介護体験談など

実は、私の母もALS患者でした。

たしか2007~8年くらいに病気が発覚し、それからいろいろあって介護生活になり、震災の騒動覚めやらぬ2011年4月に亡くなりました。過去エントリーにも亡くなった直後の時のことを少し書きました。 

nakamorikzs.net

 

まず、この病気ですが、症状としてはに全身の筋力が衰えてゆき、痛覚などの感覚はあるのに身体の自由が利かなくなり、最後は呼吸のための筋肉も衰え、人工呼吸器をつけるかつけないかの判断を迫られるという難病だということはご存じの方も多いと思われます。そしてこの病気、明確な治療法がありません。特効薬も今のところ存在しません(リルテックという進行を遅らせるかも?という薬はあるのですが、それもかなり効果があるかないか微妙なものです)。

故にiPS細胞における治療に期待がかかっているわけです。(おそらくiPS研究の第一人者である山中教授が氷水を被っていたのも、そういった患者に触れる機会が多かったが故の支援の一つだったのではと思っています)。

■(archive)iPS細胞、ALS治療に応用 マウスで効果確認 京大:朝日新聞デジタル

 

そして、病気の進行も個人個人によって異なります。病気の進行が早く、あっという間に呼吸器に影響を与える段階(つまりは人工呼吸器をつけないと生きられない状態)になる場合もありますし、かと思ったら途中から全く進行しなくなり、逆に回復してきたなんて例もあるようです。

そしてそこに至るまでの症状も様々であります。この病気は筋力が衰え、身体が動かなくなるというのは有名ですが、どこの筋力が落ちてくるかも患者毎に違い、先に手の筋力が落ちてくる人、脚の筋力が落ちて動けなくなる人、そして手足より先に喉の筋力が落ちて、呂律が回らなくなってくる&嚥下障害が起こる人と様々です(自分の母の場合は喉からでした。多少言葉が明確にならなくなってきただけの時はALSとは思ってもいなかったのですけどね……)。

故に介護についても一律の「これだ」というものがなく、本当に症状に合わせてその時の最善をとれるならとる、という感じでした(ケアマネージャーの人でさえそのあたりのノウハウはなく、本当に試行錯誤という感じでした。

そこで、現行の介護制度にかかわる問題(たとえば誤飲の吸引器は当時ケアマネは使えず、看護師か家族でないといけなかったとか)もいくつもあるのですが、まあこのあたりは長くなるので、また日を改めて。

 

「伝の心」という意思伝達装置

さて、その中でも特に困ったことがあります。それは言語が不明瞭になり、且つ手の筋力も弱まり、文字を書くのも困難になったとき。とりあえずとして、自作の文字ボードを作り、そこにまばたきする方法としてしのいでいましたが、さすがに短文でしかやりとりができません(まあ親族でしたので、文字ボードでどうするよりもある程度予測して訪ねた方が早かったりしたのですが)。ちなみに余談ですが、2009年頃、当時の鳩山首相が辺野古問題で、ALSで闘病中の徳田虎雄元議員のもとに訪問したことがニュースになりましたが、その時は秘書らしき人が徳田氏の視線だけで文字盤を動かして素早く会話をしているのを見て「すげえなあ」とか思ったりしていました。

そこで、自治体に申請して導入したのが「伝の心」というパソコンでの意思伝達システム。

伝の心:日立ケーイーシステムズ

これは、パソコンにインストールされた意思伝達アプリと、それを使う為の特殊周辺機器がセットになったものです。具体的にはカーソルが移動して、それがさしかかったときに周辺機器を操作、たとえば動く脚で踏むとか動く指を動かすなどしせ選択することで、決定出来る、というものです。

事前設定すればメールやネットもできますし、テレビの遠隔操作もできます。


難病患者の心をつなぐテクノロジー(前編)「伝の心」開発物語 - 日立

まあこの時点(2009年あたり)でもすでに市場から絶滅していた日立製PCのPriusノートに入って来てたのはご愛敬。

当時はこれも重宝しまして、余動けなかった母もメールを自力で書いて送ることができたのですが、今思うと「これらの意思伝達システムって、もうちょっと使い勝手のいいものができたんじゃね?」と思うのですね。

たとえばこれ、他のものとの連携性が薄く、連絡先も自力で全部私がこちらに入力し直しましたし(でもキーボード入力がかな入力縛りだったので苦労した)、途中で消えたこともありまして、オートバックアップつけられたらなあとか思ったり。

あと、これかなり高額なのですね。調べてみると40万円以上とか。ただALSの場合、難病指定されており、その助成が出るため、実費としては1~2万円であとは自治体が助成してくれたと思います。他の場合もたいていは何かしらの助成が出るか、もしくはレンタルとかそういった感じかと。

 

タブレットとか使った最新の意思伝達装置が出来そうな気がする

そして「もしかして今ならこれ、iPadとかタブレットのアプリでもっと安価でアップデート早いものが出来るんじゃね?」とも思うのです。そして注目するのはタブレット。2009年くらいだとまだタブレットも全然普及してなかった時代ですけど、今なんて当たり前のようにその辺で売っているわけで。

そしてそれらには多数のアプリがあります。この組み合わせがうまくいけば、安価な意思伝達システムが作れるのでは?とも思うのです。

 

たとえばタブレットは指が動くならタッチで入力出来るインターフェイスなわけですし、指が動かなくなっても、伝の心のペダルなどの応用で、Bluetooth対応にして標準化してしまえば、さまざまなところで応用出来ると思います(形状は個々考慮が必要でしょうが)。

 

それらを出来る人が集っているキャンペーン

そこで、話を先ほどのキャンペーンに戻します。

先のキャンペーンで氷水を被った人は、日本なら、世界ならと、数多くのIT企業の有名人がいます。そういった人たちが水被って寄付、だけでこの動きを終わらせたら勿体ない。せっかくそういったものを活用出来る動きがあるのですから、この際そういうようなALS、いやそれだけに留まらず、障碍を持った人を支援するようなシステムを検討するきっかけとしていただきたい、と思うのです。

たとえば前述のように、今よりも格段に便利、そして安価な意思伝達システムを開発していただくのもよいでしょう(これは個人のプログラマーでも出来るかもしれないですね)。ハードウェア面で、安価でかつ使いやすい操作機器を産み出すことが出来るかもしれません。

ほかにもそういった障碍を持ち動けない人の為のシステムを構築して頂くのもよいでしょう(たとえばPCで注文すると、宅配の人に連絡が行き、ケアマネの人がいる時間に配達してくれるシステムとか、緊急時に医療関係者などと相談出来るシステム、病院に通うために車を呼ぶシステムなど)。また、日頃の生活で退屈しないように、電子書籍が楽しめるようにするためのビューワーと作るなど(余談ですが、現在あるビューワーでも、ComicGlassみたいに音声におけるページ送り対応とかそういうのが含まれているのがありますね)。あと、それらの決済を助成と差し引いたり自動的にやってくれたりとか。やれることはいくらでもあると思います。

いや、何もITに限ったことではなく、たとえば嚥下障害に苦しんでいる人の為に、飲み込みやすいものを考案する人とか、いろいろな分野でそういったことが出来るのではないかと。

あと、今ニュースサイトを見たら、とうとう政治家までバケツチャレンジが及んでいるようですし、そのへんについて(主に助成について)考えて頂きたいと(あえて今日は障害者自立支援法とかそのへんのことについて生じた影響については飲み込みますので)。

 

ネットでは障碍者とそうじゃない人の差がなくなれば理想

ちなみに一つの理想型としては、ネットに繋いでいれば、障碍を持っていてもそうではなくても、同じ、ある意味これ以上に行動出来るようになることかと思います。(そういえば乙武氏(@h_ototake)も氷水被ってたけど、普段何気なくネットを使ってる感じの氏がどんなデバイスを使っているか、ある意味応用できそうならそれを広めればかなりいい感じかも)。

 

QOL(Quality of life)の向上

病気を治すことは(人間の認知出来る範囲では)原則医療しか出来ません。ALSも今のところiPS細胞がこの分野の治療に成功するのを待つのが最短と思われます。しかしながら患者に出来ることは治療だけではなく、その病気中の生活の質をさまざまな方法で上げることで、その苦痛を軽減することが出来ます。これは一般的に「QOL(の向上)」といわれています。

QOL(生活の質) | 高齢者介護の基本 | 介護の基本 ~ 介護応援ネット

ALSなどの難病においては山中教授などが行っているような医療的な治療の他の側面として、こういったQOL的なアプローチも必要と思われます。難病だけではなく、介護面などこれから多くの人に密接に関わってくる問題でも。

今回のキャンペーンにおいては、そういった方面における寄付もきっとあるでしょうが、やはりこれだけの人が「氷水を被る」という変わったアプローチであるにせよ携わったのですから、これを機会にこういった面において、たとえば前述のシステムの構築など、スタートするきっかけになれば、一時的な盛り上がりではなく、永続的なボランティアとなるのではないでしょうか。

 

 

最後に。

「身体が不自由になる」ということは、自分に近い人、もしくは自分の身において、近い将来、あるいは明日にでも降りかかってくる問題かもしれません。人間、誰もが病気になる可能性、事故に遭う可能性を抱えているのですから。故に、こういった身体の不自由な人のためにできることを今から考えておくのは、廻りめぐって自分の利になることかもしれません。