成年向創作物を「児童ポルノ」と呼ぶのは法律上間違っている

現在、東京都の青少年育成条例の改正案について、ネットでいろいろな話題となっています。

しかし最近、これについてアダルト向け創作物のことを「児童ポルノ(創作児童ポルノ)」と書いてある報道があることがよく見受けられますし、この条例に反対している人の中でも、創作物を指して「児童ポルノ」と言っている場合があります。

■参考:野放しの漫画児童ポルノを規制へ 都条例改正案、反対論も – 47NEWS(よんななニュース) ※リンク切れ

しかしこれ、実は正しくないのです。少なくとも法律の上でこれらを語る場合、創作物を指して「児童ポルノ」という言葉を使うのは間違っていると考えられます。その理由を先に言うと、法律で定義されている「児童ポルノ」には、創作物は想定されていないから。今日はその理由から書いてゆくことにします。ちなみにこの問題は非常に広範で、しかも深いのですが、今回は複雑化により理解が難しくなるのを避けるために、創作物規制のところについて重点的に触れます。その他の問題についてはまた後日改めて。

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「児童ポルノ」の定義

法律上における「児童ポルノ」の定義ですが、これは児童ポルノ法、正式名称を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」というものの中で定められています。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律

この法律の第二条に以下のように定められています

第二条  この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
(中略)
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの

実は、ここの定義、とりわけ二条三項三号において重大な問題が指摘されているのですが、とりあえずその件を今書くと複雑化するので、そちらはそのうち「児童ポルノ」全体の定義を書くのと同時に説明する予定です。

ともかく、現行の定義はこうなっているわけです。さて、これだけ見ると、なんとなく実写物も創作物も同じ、と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、それは違うのです。その理由はこの法律の目的が書かれている第一条にあります。

(目的)
第一条  この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的とする。

上の目的を見ると、この児童ポルノ法は「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ」て「これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定める」ことを目的として作られているのです。つまり言い換えると、性的搾取及び性的虐待を受け、権利を侵害される児童がいることが必要となるわけです。つまり、児童ポルノ法における「児童ポルノ」の定義としては、その権利を侵害される児童の存在が必要なわけですね。それを守るための法なのですから。

しかし、二次創作物の場合、それは絵だったり文章だったり、そこに実在の人物は存在しません。突き詰めれば点と線や文字列です。それは少なくとも法で保護されるべき「人」ではありません。そこに「人」がいたら、人間が生命を想像するという、神のような存在になってしまいます。故に、権利を侵害される実在の児童は存在しないわけです。

ちなみにこの見解は、現在の千葉景子法務大臣も似た見解を過去に示されています。他にも同様の見解を持つ国会議員の方は多数おられます。さらに日弁連もかつての生命で同じ見解を出しています(最近の声明では創作物に関しては触れてなかったですが、少なくともそこにおいて方針が変わったとは思えないので)。

■参考:2009-10-01 – 奥村徹弁護士の見解(06-6363-2151 hp@okumura-tanaka-law.com)

■参考:日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」見直しに関する意見書

「児童ポルノ」の規制理由とアダルト創作物の規制理由の違い

そもそも、アダルト創作物が規制される理由と、このような児童ポルノ法で実写の映像が規制される理由は本来違うものなのです。実写の映像の場合、前にも書いたようにその映像が製造されることにおいて、法で保護される個人の権利が侵害されているので、規制対象となるわけです(しかしその範囲が実車内においても広すぎ、自分の子供の裸を純粋に成長記録のつもりで残す感じで写したものや、『サンタフェ』などもひっかかる可能性があるのが、今の問題になっているのですが、これも後日まとめて書きます)。それに対して創作物の規制というのは、主としては「それを見せることで悪影響のあると思われる青少年にそれらを見せないため」というのが主な目的となっているでしょう(その方法にも今回の「非実在青少年」みたいに、いろいろ問題がある場合があったりするのですが)。

中には、創作物に影響されて事件を起こすからこの方の範囲内で規制しろ、という声もありますが、その影響を与えているという確たるデータも存在しないのにそれを規制しようというのは、いささか乱暴すぎではないでしょうか。さらにその論理で言えば、推理ドラマの殺人シーンは殺人事件に影響するので規制しろとか、そこまで言わなくてもドラマであるレイプシーンは規制しろ、ということになります。そうするとそれこそかなり多くの創作が規制対象になりえてしまい、出版統制につながりかねません。

これらを一緒くたにするというのは、それぞれの法律の目的を見失うことにもならないでしょうか。

言葉の混同が行われている

すなわち、「児童ポルノ」と言われるものと、創作物の規制は目的が違うのです。ちなみに東京等の青少年育成条例改正案でも「青少年性的視覚描写物」という言葉が「児童ポルノ」とは別に書かれていますので、この条例の上でも創作物は児童ポルノとされていないと証明出来ます。それなのにこの件に関して創作物を「児童ポルノ」と混同して言うのは、間違えているのではないでしょうか。少なくとも日本の法律上では。どうもそこを混同している報道記事が多いのですが、それは知らずにやっているのでしょうか、それとも同じものという印象を与えるためにやっているのでしょうか。ただこれは今起こったことではなく、過去にも似たような事例はあったみたいですが。

■参考:準児童ポルノ – Wikipedia

しかし、怖いことに現在提出、討議されている児童ポルノ改正案では、創作物の規制もこの法律内で想定されているのですよね。

法務省:児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案

附 則
(検討)
第二条 政府は、漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するもの(次項において「児童ポルノに類する漫画等」という。)と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進するとともに、インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置(次項において「インターネットによる閲覧の制限」という。)に関する技術の開発の促進について十分な配慮をするものとする。
2 児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、前項に規定する調査研究及び技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

検討で、三年後と書いてありますが、これを入れること自体、規制範囲内に加えるつもりでは、という意見は前から危惧されています。そもそも前述のように保護主体が実在する児童のはずなのに、創作物の規制話がこの法律内で出て来ること自体がおかしい話なのです。

実はこの法律案、実際に去年の春〜夏くらいに一度通りかけました。しかし政治状況から廃案となり、その後推進していた当時の与党が野党になったのもあり、見送られて来たという経緯があります。おそらく現行の法がそのまま通ることはないと言われてはいますが、去年秋頃にも一度委員会を妙な形で通りかけた経緯があり、油断しているとこの条項を残したまま通ってしまう可能性もあります。今、国会で審議が行われている最中ですが、東京都青少年条例、児童ポルノ法のその他の問題も含めて、こちらにも絶えず注目する必要があるでしょう。

まとめ

このように創作物の規制問題、それに児童ポルノ法の問題というのは単純なものではなく、非常に深いものなのですよね。それは上のようなものだけではなくて、児童ポルノの定義とか、その法改正の方法次第での危険性とか、創作物のゾーニングとか。調べてきた人はその問題点がわかるでしょうが、一般お人からは何故反対しているのかというのがわかりにくく、ことによると欲望のためと単純化されてしまう可能性があります。故に多くの人にこのような根本的な問題点を説明する必要があると考えます。そしてそれをふまえて都議会にせよ、国会にせよ国民の多くが注目し、本質的な問題を考える必要があるでしょう。

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