ここ数日、「ゴルスタ」という青少年を対象としたスマホアプリSNSが炎上しているというニュースがネットを騒がせています。
これが炎上したきっかけは、運営が利用者のアカウントを取り消した際、復帰のために反省文を書かせたことが広まったのがきっかけとなっているようです。ただ、この件が炎上したのはもっと根深いところに要因があるように見えました。
そこでまずはこの一件の経緯を追いつつ、どこが問題だったのかについて、思い当たるところを書いてゆこうと思います。
「ゴルスタ」とは何か
まず「ゴルスタ」とは何か。これは塾経営などを行っている教育ビジネス企業であるスプリックス株式会社の運営するSNSサービスで、スマホアプリから利用出来るもの。特徴的なのはその対象を青少年(ここでは主に中高生年齢層)に限定したことにあります。正確なリリース時期は不明ですが、今年前半と思われます。
自分はこのアプリのことを名前くらいしか知らなかったのですが、CM展開なども行っていたようで、青少年の間では広まっているところもあるものだったようです。すでに5月時点でそれらについて触れたユーザーのTwitterやYouTubeなどへの投稿が幾つかありました。
炎上の経緯
炎上前
最初に炎上の火種が見えたのがその警告文の怪しさ。このアプリは中高生限定を謳っているのですが、警告文に「24時間365日体制の監視システム」などによりすべての投稿を監視していると表示され、中高生以外を発見した場合強制退会と警察当局に即時通報を行うというもの。さらには「貴方の住所・電話番号・居場所全てが特定・追跡され、未成年への犯罪の疑いで逮捕されます」という文面がありました。
しかし、普通に利用した場合、利用しただけで逮捕することは事実上不可能であること、また個人情報の特定も「普通にアプリを利用した場合」「こちらから入力しない限り」特定は(警察捜査や通信会社でもなければ)特定不可能なわけで、その稚拙さ、さらにそのような言葉が出てくる怪しさが指摘されました。これが記事になっていたのが8月19日。
■(archive)中高生以外「完全排除」で人気爆発スマホアプリ、警告文が稚拙すぎて波紋広がる (Business Journal) - Yahoo!ニュース
Twitterをきっかけに炎上(8月24~25日)
本格的炎上となったのは、8月24~25日ごろ。炎上したきっかけとなったのは、管理者の強権的な言動が表に出たことによるものと思われます。おそらくは下記のTweetおよびそのまとめTogetterが発端。
■中高生専用SNS「ゴルスタ」運営批判は威力業務妨害でBAN、復帰には協力姿勢と反省文という驚異の体制を見て震える人々 - Togetterまとめ
それは何かちょっとしたことでもアカウント取り消し(BAN)となったこと。それは少しでも運営に批判的なことを書いただけでもそうなっていたようです。しかしそれを復帰させる方法として「反省文を送る」というものがあり、BANされた人がTwitterに反省文を書くと、それを運用アカウントが確認し、凍結を解除していたとのこと(その際にRTあり)。しかしこのような姿勢が強権的過ぎるとの批判が広まりました。
■中高生限定SNS「ゴルスタ」が大炎上! 運営批判したら垢バン、反省文の提出求める - Excite Bit コネタ(1/2)
ただし、一部で流れていた「カセットテープを知ってると書いたらBANされた」というのはジェネレータを使ってのネタで本当に起きたものではありませんので念のため。
■「ゴルスタ運営が『中高生がカセットテープを知っているはずがない』という理由でアカウントを凍結した」という噂が拡散中
個人情報面の問題でさらに炎上(8月25~26日)
炎上となると、運営の過去の言動についても注目が集まるのが常。よって過去の発言にも注目が集まります。
■#ゴルスタ 運営公式 みこちゃん全ログ(8/26夕刻時点) - Togetterまとめ
そこで過激、強権的な言動に注目、そして批判が集まりましたが、その過程でBANしたユーザーの個人情報(本名)を晒したTwitter投稿のスクリーンショットが投稿されました。それによると「ゴルスタ元ユーザーの『○○(HN)(××県在住の△△(本名))』が業務妨害の電話を、配信しようとしているためこれにより警察に通報します」という文面で警告が書かれていました。
■ゴルスタ運営、「個人情報保護法違反」や「恐喝罪」「労基法違反」など犯罪だらけ!社員2000人で上場も予定のブラック企業 - Togetterまとめ
これにより「個人情報を勝手に公開している」という疑惑が出てきて、再度炎上することになります(※現在アカウントが消えているため画像か本物かは確認出来ない状態ですが、後述の讀賣新聞の記事で内容を認めていると思われる発言があります)。
実際「ゴルスタ」のアプリを見てみるとそのアクセス権限が非常に広範囲なものであると判明します。それはカメラ、連絡先、位置情報、ストレージなどへのアクセス権。これらとあわせて「ゴルスタはアプリで個人情報を抜いているのではないだろうか」という疑惑が生じ、それが燃料となってさらに話が広まってゆきます。
ゴルスタってただのスパイウェアじゃね?ここまで来ると笑えない pic.twitter.com/1S88e4PTXQ
— 因類分解 (@insubunkai) 2016年8月25日
さらに利用規約において、利用者にからご提供頂く情報という項目の中に「クレジットカード情報(保護者名義のクレジットカードを含みます)」とあったため、それが個人情報を取られるのかという話にもなります。
そんな折、実際に消費者センターに連絡した人も現わたようです。
■ゴルスタの件について消費生活センターに問い合わせてみた結果→「今すべきことは相手にしない、つまり無視することです。」 - Togetterまとめ
ニュースサイトに掲載(26日)
26日の間にあちこちのネットニュースサイトにこの件が掲載されますが、そのうち讀賣新聞のニュースサイトにも掲載。
■中高生向けアプリ「ゴルスタ」 個人情報流出で謝罪 : まとめ読み「NEWS通」 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
ここでは個人情報を書き込んだ件について"「この事実に対しては、当社のミスでした。深夜でもあり、担当者がヒートアップしてしまったためです。深くお詫びいたします」と謝罪した。"とあります。さらにクレジットカードについても"将来的に課金コンテンツを設置した時に備えたもので、「いままでクレジットカード番号を入力した人はゼロ」"とあり、そのご利用規約から削除された模様。
Twitterアカウント、サイト、そしてアプリ消滅(8月27日)
その後27日、騒ぎの原因ともなった運営アカウントが消滅した模様。
■過激ツイートで大炎上していた「ゴルスタ」公式Twitterが消滅 個人情報流出認める発言も - ねとらぼ
あと現在、運営元であるスプリックスのサイトにアクセスすると「ただいまアクセスが集中しているため、サイトが繋がりづらい状態になっています。 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」と表示されますが、それがサーバーが返しているものではなく、HTML直書きであったことからそれも話題になりました。
8月28日現在
8月27日、AppStore及びGoogle Playにおいてゴルスタのアプリが消滅しており確認出来ません。これが一時的なものであるのか、そして運営元の自発的なものであるのか、それともAppleやGoogleの意図によるものなのかは不明です(ただ同時になのでおそらくは運営元の行動だと思われます)。
ただ28日現在、アプリが消滅しているのでダウンロード自体は行えませんが、SNSの運営自体は続いているようです。
■アプリストアから削除された「ゴルスタ」は現在も既存ユーザ継続利用中で閉鎖されておらず新規登録停止は一時的な処置である模様
問題点はどこにあるか
さて、今回の問題点はどこにあったか、ということになります。個人的見解ですが主なところを抽出してみたいと思います。
権限を握る「運営」が強権を発動することで与える影響
ネットコミュニティにはやけにその場のルールに厳しい人は存在しますし、今もあるでしょう。ただ、今回の場合大きく問題となったのは、その仕切りを行っていたのが情報を大きく握る運営が実際に運営が持ちうる権限を行使してしまったこと。顕著なのが本名や住所晒しとされる行為。つまり運営が握り得る情報をどんな形でも使えるといういわば脅しのを意識的か無意識にしてしまう形になってしまったわけです。他のアプリで喩えて言うなら、ブラウザでエロ動画を見ていたら、ブラウザの開発元が閲覧履歴を公開する恐怖感と同じものを持たせてしまった感じ。となると他の個人情報は大丈夫か、そして他に何か抜き取られていないかというのを心配になった人が大勢発生し、個人情報、ひいてはクレカ情報に関係する面での炎上になったのも事前でしょう。
つまるところ、「運営」というそのコミュニティやアプリにおける権限を持つものが、開けてはいけないものを開けたがために、それにまつわる全ての疑念や心配がユーザーに襲いかかったというところでしょう。正直なところBANが盛んに行われているくらいのものであれば、ただユーザー離れが起きただけで炎上までにはならなかったと思います。そういうのよくあるし。
「中高生限定」であったことの問題
更に問題であったのは、このアプリが「中高生限定」であったこと。
中高生くらいであれば、始めてスマホを持つ年代でしょう。故にそのネットリテラシーも未熟であるのは当然です。初心者なのですから。しかしそんな状態のところに、あのような強権的な言動で対処したのは悪手と言えます。それはたとえ相手に多少の瑕疵があった場合でも必ずしも悪意があったとは言えないわけで、
一見、復帰させるために反省文を書いてしまった人は何故書くのかと思うでしょうが、そこはやはりネット歴も人生経験も少ない中高生です。どんなサービスであれ、いきなりBANされたなら相当ネット歴が長い自分でもいい気分はしないのに、そのような子供がそうされたら「どんな状況であれ」自分の方が悪いと思い込んでしまい、書かなくてはいけないという心理が働いても不思議ではありません。しかも大人もおらず、反対する者はBANされるという閉鎖空間なわけですから。さらには前述の個人情報に関する件と合わせると、恐怖を覚える人がいても不思議ではありません。
つまるところ、ネットリテラシーも浅い年代に対してそのような状況を作り出してしまったのが問題と言えます。
この件で反省文を書いた人やゴルスタを擁護していた利用者、すなわち中高生を愚かという人が若干見受けられますが、ネット経験も人生経験も浅いわけでそのような状況に置かれた場合、そうさせる状況のほうを問題視はすべきであり、そういう行動を取ること自体愚かとは思いませんので、そのような非難はすべきではないでしょう。
何故このような状態になってしまったのか
しかし思うには、何故このような状態になってしまったのかということ。これはおそらくネットにおける青少年周りの特殊事情があるからでしょう。
前述のように中高生はネットリテラシーがまだ未熟です。そして時にはネットにおける犯罪行為に巻き込まれることもあり得ます。よくあるのは出会い系。最近だと写真交換アプリにおいて裸体を送らせるような事件が発生しており、さらにその写真交換アプリの運営元が逮捕される事件も起こりました。
■児童ポルノ放置容疑、アプリ「写真袋」運営会社長を逮捕:朝日新聞デジタル (リンク切れ)
青少年を狙った悪意は残念ながら存在し、そのようなものが入り込む可能性もあります。だから「中高生限定」を謳っている「ゴルスタ」でも当然その問題への危惧は起きていて、それ故に中高生以外と思われるものを厳しく排除するという態度を保っていたのでしょう。運営元が教育産業ですから、そのようなものになれば致命的なので。
しかしそこに固執するあまりに、運営方法を間違え、前述のようなまた別の問題を生み出してしまったという印象です。コミュニティとしての拡大と犯罪抑止のジレンマに挟まれたという感じでしょうか。
青少年対象のWebサービスの困難さ
青少年を対象とした、もしくはそう意図しなくても青少年が集まるようになったWebサービスは昔からありました。古くは現nanapi社長のけんすう氏が運営していた「milkcafe」(現在でも運営元を変えて存続中)や前略プロフィール(終了)など。しかし、青少年のネットリテラシーの経験値不足と、それに対する悪意という両方の問題に加えて、大人を相手にするよりも色々な問題があることで非常に困難を伴います。いじめ問題などもそうでしょうか。
それら青少年相手の運営は大人を相手にするよりもはるかに大変でしょう。ビジネス面で見れば、青少年の需要を掴めるという青少年コミュニティを運営するというのは広告などの面で非常に見返りが大きいであることは想像出来ます。何せこれから購買年代層になってゆくわけですから。にもかかわらずこのような青少年コミュニティに大手企業で本格的に乗り出しているところはごくわずかです。むしろ年齢制限を設けて青少年に使えなくしているところのほうが多いでしょう(facebookは13歳未満、mixiは15歳未満使用禁止など)。つまるところ、それだけリスクが高いが故に、大手でさえ本格展開出来ないという感じなのではないでしょうか。
しかし今回の件は、非常に慎重を伴うWebサービスにおいて甘い想定のまま展開をしてしまい、そしてその通り破綻してしまったという印象を受けます。
正直、今のままだと問題は繰り返されるか、もし管理人だけ変えて強権的な姿勢がなくなったとしてもまた別の問題が生まれそうなので、サービスを存続するとなれば方針の明確化や個人情報の管理など抜本的な改革が必要と思われます。特に個人情報の件は今までの経緯も含めて明確にしないと、ベネッセ漏洩事件やその後の対応みたいになってしまう危険性もあるので。
余談
この件を書いてきてほかにもいろいろ思うところがありました。主に過去にも書いた以下の関連について。