空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

テレビは本来金を集めにくい性質故、広告代理店が力を持つのではないだろうか

ネットではよくテレビ業界の話題になると、広告代理店、とりわけ電通の批判が書かれることがよくあります。例えば情報操作なり中抜きしすぎなり縁故採用多すぎなりセカンドライフ大コケざまあなり。総じて、収入を含めたテレビ業界におけるその影響力の強さが批判の対象となっているようです。では何故、電通はじめ広告代理店がテレビ業界に対して影響力を持つのか、というところから考えてみましょう。それは、本来金を集めるのが非常に難しい性質のテレビというメディアから、金を集める仕組みを作ったからではないでしょうか。

こう書くと、「何でテレビに金を集めるのが非常に難しいんだ? 実際CMはあんなに多く流れているじゃないか」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。しかし、もっと根本的に考えてください。テレビというのは、放送局から電波を流す、その収入はNHKならば受信料、民放ならばCMによる広告収入というのが主なものでしょう。しかし、実際その電波は放出されるもので、どれだけの人が見ているかは正確に知ることは出来ません。たしかに視聴率というものはありますが、これも全体から一部を抽出したものであり、統計学的にある程度の信頼性はあるかもしれませんが、正確な数字を保証するものではありません。故に、もしここで「テレビは大勢の人が見ている」という確証がなかった場合、テレビにCMを打とうとする企業はなかったはずです。しかし、現在は見ての通り、CMは大金を払って放映してもらうものとなっています。

この「金になりそうもないもの」に価値をつけて、大量の金の流れを引き起こしたという点が、広告代理店、テレビで言えば電通の功績であり、そのまま大きな力を持つ要因となったのではないでしょうか。民放テレビは、戦後、それに参入しようとする企業はなかなかおらず、現在キー局の経営母体である新聞社も、参入を渋っていたようです。それを説得し、各新聞社に出資させたのが電通の当時の社長だったと昔読んだ本で書いてあったと思います。おそらく最初は、CM放映費も安かったのでしょうね(大昔のCMとか見てると、生で番組の俳優がそのまま電球の宣伝とかしてたみたいですが)。*1しかし数十年後、結果として電通ほか広告代理店がCMによる収入ルートを築き、それを価値のあるものとして成立させ、放送局に多大な収入を及ぼすようになりました。ですので、広告代理店(電通)は金銭面においては自分で開拓した市場で利益を得ている、と言えるわけです。おそらくこれが、現在の広告代理店が影響力を持つことに対しての言い分ではないかと。

これはテレビだけではなく、広告代理店の企画の多くでは、このような方法、つまりそのままでは価値の見いだせないものに価値をつけることによって金銭の流れを起こすという方法がとられているように思えます。最近だと『セカンドライフ』がその対象になったと言われることがあります、行動原理としては同じ理屈ではないでしょうか。まあ、成功したかどうかはランバダランバダ。

これらの方法は、その分野に金銭の流入が必要な場合有効ですが、逆に、金銭が必要でないと思っているのにその流入を行われたその分野の既存のファンにとっては、広告代理店を目の敵にしてもおかしくはないでしょう。故に、反発が多々あると。とはいえ、最低限の金銭は必要なので、そのさじ加減が難しいところでしょうが。


そして、こう考えて思うのは、ひょっとして今のネットの歴史も同じような経過をたどっている最中なのかもしれないということ。ネットもそこで何かをしただけでは、直接金銭に結びつけるのはかなり困難です(有料コンテンツはよほどのものじゃないと採算とれないし。そういえば昔Web投げ銭なんてのがあったなあ。今でもあるけど)。しかし今では、アフィリエイトやらバナー広告、Googleアドセンスなどを使って、一定の収入を得ることも可能になってきました。企業サイトではそれでコンテンツの採算を取っているところはありますし、個人でも、それで生活できている人もいないことはないでしょう(私はとうてい不可能ですが)。となると、これももともと価値のないところに金銭の流入の仕組みが出来ている最中であり、このまま行くと(携帯サイトも含めて)テレビCMのシェアを奪うくらいになる可能性はかなりあるのではないでしょうか。さらに言えば、ネットの場合テレビCMより広告を見た人の数字がその仕組み上わかりやすいというところも、普及の起爆剤になるでしょう。ただ、もしかしたらほかの有用な広告媒体が現れ、ネット閲覧数が減少した場合、テレビCMよりもはるかに衰退する可能性もありますが。ただ、放送局と時間が有限な以上、詰め込める量も有限だったCMと比べて、ネット広告は作り出せればほぼ無限とも言えます。故に、今後はCM時代のようにひとつの広告にかつてのCM料金ほど莫大な金がかからず、分散してゆく可能性はあるでしょうね。

となると、最近アフィリエイト会社が多くなってきているのは、ことによるとネットの成長に合わせて今後数十年間、莫大な利益が転がり込んでくると考えている可能性も否定できませんね(ただ、自らコンテンツを作るつもりはないようですが)。いまのところGoogleがかなりシェアを誇っていますが、今後どうなるかはまだ未知数です。もしかしたら、電通ほどとはいかなくても、それなりに力を持つ会社が出てくる可能性もあるでしょうね。まあ、統制はネットの性質上不可能でしょうけど。

でも、さすがに既存広告代理店が、ネットに対してずっと無力、というとそんなことはまずないでしょう。おそらくそれまでと同じように、価値のないところに価値をもってくるはずです。それが押しつけではなく、多くのネットユーザーが楽しめ、結果としてよい方向にもっていけるものならよいのですが。

*1:そういえばテレビ前の娯楽で主だったのは映画でしたが、あれも入館料のほかに映画会社は広告で得る収入がそれなりにあったのかなと今思いました。このへんも、そのうち映画の斜陽とかも含めて調べてみると面白そう。