空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

メーカーBBSはその役割を終えたのか

PCアダルトゲームメーカー、アリスソフトさんのHPにおいて、2008年5月7日、BBS(掲示板)が閉鎖されました。しかしそれに先立ち、2000年あたりでアダルトゲーム『Kanon』『AIR』の影響からかなりの賑いを見せていたKeyのBBSも閉鎖されていました。これを知ったのは最近で、元SS書きとしては残念に思ったものですが、そうは言ってもここ数年、利用をまったくしておらず、行ったとしてもニュースサイトさんで新しい情報が公開された時くらいなのですよね。そして前述のアリスBBSも、コメントを書く役割は同じHPにあるブログ的なもののほうが賑わっていたように思います。*1


1990年代の日本におけるインターネット黎明期、ホームページにはかなりの確率でBBSがありました。特に個人HPでは、それが重要なコンテンツのひとつでもありましたよね。メーカーでも、上のようにアダルト系だけではなく、コンシューマのソフトハウスなどでも設置して、そこのファンが交流する本拠地となっていたのは珍しくはありませんでした。ちなみに1997年、私がはじめて書き込みをしたゲームメーカーのホームページは、クインテットのHPでした(現在HP消滅)。そしてもっとも有名なのは、セガが運営していたセガBBSではないでしょうか。さまざまな板があり、ほかのハードの話題や雑談もOKという自由度の高いBBSだったために、かなり人が集まるBBSでした(2001年大幅縮小、2005年ほぼ閉鎖)。

余談ですが、当時から2chのようなBBS群はあったのですけど、今と違ってアンダーグラウンド(アングラ)的な雰囲気を持たれていたのですよね。初期の2chも同じく。それが今や、アングラなんて言葉もネット上では死後になりつつあるような。これの原因はいくつか思い当たるのですが、それはまた今度。


さて、そんなメーカーBBSも、最近では上のようにどんどん消滅しています。且つ、新しく作られるメーカーホームページには、最初からBBSがないことのほうが圧倒的多数で、あってもブログでしょう。これはどうしてか。いや、そもそも何故メーカーHPに掲示板があったのかから考える必要があるでしょう。

メーカーBBSの存在意義

メーカーHPにBBSがあった理由、それは第一に「人を集めるため」と「交流で自社製品の話題を盛り上げるため」だったでしょう。インターネットが普及していない時代は、たとえその製品についての話題を話したくても、それをどこでしていいかというのがわかりませんでした。BBSはあるにはありましたが、前述のようにアンダーグラウンド的な雰囲気があり、一般の人は近づきづらいイメージがありましたし。しかし、その製品を出したメーカーがBBSを提供していれば、それはすなわち「BBSの本家」となり得るわけです。故に、人気のあるゲームメーカーのBBSは、非常に盛り上がりました。それは、メーカーにとっては自社のことで盛り上がり売り上げにつながる、またサービス的な意味もあったでしょう。

メーカーBBSが消えた理由は何か

では何故、そのBBSの本家はなくなっていったのか。いくつか思い当たる理由をあげてみましょう。

管理が大変

昔からBBSに書き込まれるのは善意的なものだけではありません。悪意的なもの(度を過ぎない批判程度はOKとしても、行き過ぎた罵詈雑言とか)、そして荒らしというものも高確率でつきまといます。よって管理する人間というのが必要なわけですが、これが意外と大変。実は会社勤めしている頃にやったことがあるのですが、毎日どんな長文でも目を通さなければいけません。まあ読むのが楽しい書き込みもそれなりにあるのでいいのですが、それをどんな本職が忙しいときでもそれをやらなければいけないということですね(実際、休日も家からつなげてチェックしていました)。管理専門の人間を雇えるところなんてそんなないでしょうから、おそらく多くの管理人さんはで同じように苦労された人はいるのかもしれません。

それよりもひどいのがスパム。個人HPでもBBSを持っている人ならわかると思いますが、現在、アクセス制限をしないと、あっという間に広告スクリプトで掲示板が埋め尽くされます。しかもその中には、最近だとURLを踏んだとたん、トロイの木馬が仕込まれるものも多いのでこまめな削除とアクセス制限の定義変更が必要になります(まあ、国内IPだけにすればかなりはじけるのですが)。その手間をかけるだけの価値が、後述の理由により今はなくなってしまったということでしょう。

話題の場が他にも現れた

今、その何かについて誰かと話したいのでしたら、2chに行けばスグに可能な場合がほとんどでしょう。しかも国内のBBSでは一番盛り上がっています。さらに2ch的雰囲気が嫌いでも、ぐぐればそれなりのコミュニティを見つけることが出来ます。また、1990年代には一般の人には難しかった自分のホームページの構築も、今ではブログやTwitterなどで、それについて発信する場があるのですよね。また、mixiコミュニティーなんてものもあるでしょう。となると、本家へ集まっていた人が、そっちへ分散してしまったということが言えると思います。あと、本家はあまり関係ない話題や非半径の話題をしてはいけないという心理的制約が無意識にかかるので、気楽に言える外部の方がよかったというのもあるかも。

内輪的(閉鎖的)空気

昔から本家では常連と新しく来た人の間にある壁が構成されてしまうことがあるのですよね。それは常連の人が意識していなくても。場の少なかった昔なら、その中に思い切って入ってゆくこともできたでしょうが、今ではそれよりは外部のところに気軽に書いた方がいいと思う人もいるでしょう。結局、一部の人のための閉鎖的なコミュニティーになってしまったBBSの存在意義が薄くなってしまったのかなと。

炎上の可能性

その製品の出来が悪かったり、不具合があった場合、まず一番最初の標的になるのはその本家でしょう。実際、本家BBSが炎上して閉鎖されてしまったケースもあります。直接的なメリットが薄いのに、その炎上が起こるデメリットが大きければ、BBSを運営することに疑問を持つのも当然と言えるでしょう。


ネットの歴史は移り変わる

このエントリーのように「終えたのか?」と疑問系でつける場合、「いや、そうじゃなくて云々」と言いたいのですが、今回の場合はメーカーHPに対してなら「そう、もう終わったかもね」と言えてしまうのが今のメーカーBBSだと思います。
ただし、これは『Flashの文化はニコニコ動画に駆逐されたのではなく、ニコニコに内包されているのではないかと思う話』で語ったのと同じように、今あるソーシャルネットワークやブログスタイルが、今までのBBSというスタイルを内包している故のことではないかと。また、BBSというシステム自体も部分的にはまだ使われ続けると思います。

変化の早いネットの世界、これも成長の一つの過程としてとらえるべきかもしれません。



◆おまけ
これを調べている課程で、水無月情報ページが去年閉鎖されていたことを知り、ちょっとしみじみ。BBS方式に限らず大昔お世話になったところがどんどんなくなってゆくけど、これも時代の変化なのかなあ……。ま、今日のエントリーも郷愁からきているものです。



※追記 2014/12/16
この記事を書いてから6年、最近はむしろBBSって言葉自体を聞かなくなったなあと(部分的にはあるけど)。個人ページだともうスパムが大変で、管理しきれないのもあるでしょうし。そもそもレンタルサービスの多くが終わってるのもあり。

ただ、日本の場合2ちゃんねるがまだ現役であるため、まだ掲示板というシステム自体は生きている感じでしょうかね。したらばとか。

*1:だけどSystem4.0掲示板がなくなったのは、使っている人にとっては少し痛いのではないかと。これは開発ブログとかあった方が便利かも。