空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

最近の『クレヨンしんちゃん』に鬱展開が続く理由を考えてみる

なんか最近、『クレヨンしんちゃん』の鬱展開が話題になっています。

クレヨンしんちゃん(漫画)が鬱展開な件について

今月号のクレヨンしんちゃんも辛い展開だ…

漫画原作の『クレヨンしんちゃん』はアニメと違ってアクや皮肉感が強いのはご存じの方も多いと思いますが、それでも基本的なところはいかにも竹書房や芳文社が出している4コマ系雑誌のマンガだった『クレヨンしんちゃん』。しかし、突然このようになったのは驚きました(とはいっても、この前数号は読んでないので、それまでも傾向があったかもしれませんが)。

さて、ここで重要なのはどうしてそうなったかということ。それをちょっと考えてみました。
ひとつは、インパクトを与えておいて実は……という展開でもとにもどるパターン。つまり死んだと思っていた人が生きていたとか。ネット上で言うところの「釣り」行為にも似てますね。ただ、漫画ではこういったこともたまになら悪くありません。実際大いなるマンネリとなりかけていたクレヨンしんちゃんがこれだけ話題になったのですからあと、私も予想できませんが、この状態からまた新たなる感動を呼び起こすための伏線というパターン。それが出来たらまさしくこの作品は今よりも評判をあげるでしょう。

しかし、以上のようなプラス思考だけではなくて、マイナス方面にも考えることが出来ます。
まず、「テコ入れ失敗」。つまり「大いなるマンネリ」を打破しようと仕掛けた展開が、思ったより反発が多くて失敗方面に向かっているという感じ。まあこれを前述の新たな感動を呼び起こすパターンは、どっちにしてもこの展開が収束しないとわかりませんが。

そして、個人的にこれが一番あり得るのではないかなあと思っているのが、「作者が”現在のような作風での”連載をやめたがっている」というパターン。
『クレヨンしんちゃん』は46巻という4コマ雑誌系マンガとしては『サザエさん』や植田まさしマンガ同様かなりの長寿連載となっています。まさしく大御所クラスでしょう。そしてその他メディアの展開もアニメをはじめとして膨大になっています。最近では『ドラえもん』の視聴率を超えているみたいですし(まあこれはリニューアル以来『ドラえもん』が下がっていると言った方が正しいですが)。しかし、それによってマンガの創作に昔のようないかにも子供に見せるのは(親にとっては)どうかと思われるシーンが無言の圧力(もしくは編集部の意向)によって入れづらくなっている可能性もあります。最近では同じ双葉社から『子育てにとても大切な27のヒント―クレヨンしんちゃん親子学』なんてのも出てますし。そうなるとこっちの路線が売れると判断したら、あまり下品な展開は避けたいのが出版社の意向でしょう。

子育てにとても大切な27のヒント―クレヨンしんちゃん親子学 クレヨンしんちゃんのまんが日本の歴史おもしろブック〈1〉旧石器時代~鎌倉時代前期 (クレヨンしんちゃんのなんでも百科シリーズ)

しかし、もし作者の臼井儀人氏が、そういう状況に嫌気が差し、クレしんへの意欲がなくなってきたとしたらどうでしょうか。しかし当然このサザエさんクラスの人気になっていたものをやめさせてもらえるとは思いません。なら、わざと終わらせるために人気を落とす……というのは(よほど追い詰められていない限り)作品を作る人間として考えにくいのでこっちのセンは薄いと思いますが、そうでなくても「人気を気にせずに思い通りにやる! もしそれで人気が落ちて終了するならそれはそれで」と思っていたらどうでしょうか?


ちなみに作者が書きたくなくなって、終わるための行動をしてしまうということはよくあります。漫画では『幽遊白書』の冨樫義博氏が一番有名でしょう。最終刊を見れば言うことはもうなくなります。今の氏のジャンプにおける超特別待遇も、当時の大乱調を再発させないため、と考えるとちょっと納得できたりします。それに『マカロニほうれん荘』の鴨川つばめ氏が、連載末期にはやめたいのに終了させてもらえなかったために、最後のほうはマジックで描いた原稿を渡していたという話もあります。ちなみにそのへんは『消えたマンガ家』に詳しいです。

消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

それにマンガ以外でも文豪、夏目漱石は『吾輩は猫である』を連載して人気が出ましたが、もう続けたくなくなった。しかし人気があるので編集者は終わらせたくない。で、夏目漱石がどういう手段をとったかというと、それは小説ラストの有名シーン、酒樽でお経を唱えつつ溺死。つまり強引に主役を退場させたと(これはやや逸話っぽさがあって本当かどうか分かりませんが)

ただ、それを上回って編集者が終わらせてくれないことも。
真実は分かりませんが『ドラゴンボール』におけるピッコロを倒してチチと旅に出るシーンのラスト、『まだ終わりではないぞよ もうちょっとだけ続くんじゃ』という亀仙人の台詞は、実はあそこに最終回を示すものがあったという疑惑があります。つまり鳥山明氏はやめたかったのに、当時超爆発的人気のあったその作品をやめるわけにはいかなかった編集部がそこを弄くったと(サルまんのネタで、最終回を書いたら「完」の上から「次回からもっと面白くなるでヤンスよ」と帰られていたというネタがありましたけど、それが元ネタなのか?)
おまけにもうひとつ、こんなパターンも。シャーロックホームズシリーズでは、最後の事件で滝壺に落ちて死んでしまいます。これも(大人気シリーズにもかかわらず)作者がもう終わらせたかったから。しかし、(これも本当かどうかは不明ですが)作者の母が続きを熱望したことにより、何故か生きていることになって復活します。そしてどうやって生きていたかは今でも一部で議論になっているようです。


さて、『クレヨンしんちゃん』に話を戻します。こんなわけで、鬱展開もほのぼの感を前に押し出したものではなくて、思った通りにやっているとしたら納得できるかも。それこそ昔のような混沌さが溢れているクレしん、もしくは新しいパターンのクレしんが見られるかもしれません。

まあアニメ方面からの人には不評になるかもしれませんが、まあそれは『サザエさん』でも原作はけっこう毒がありますし、『ルパン3世』だって一番有名なアニメ2期はマンガとだいぶ違います。もう原作とアニメは別と分けられる時期にきているとでしょうし、あえて無理にほのぼのする必要はないのでは。そしてそれは作者の臼井氏も同じように思っているのかも。

マンガで言えば、ドラえもんもけっこう不条理な展開とかありましたし、ドンブラ粉とかの絵を見ると確実に子供にトラウマ残してましたから、クレしんもこれくらいの展開は別にいいと思うのですけどね。あと、アニメはアニメですばらしい作品がありますからね。『オトナ帝国の逆襲』とか。

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ただ、今のマンガの展開に関しては今のパターンはちょいと後に引くとキツイので、そこは上手く収束させて欲しいと思います。そこは別に子供向けな全面幸せオチでなくてもいいので。

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