空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

オシシ仮面現象

『ライオン仮面』をご存じですか?
ライオン仮面を知らなくとも、「オシシ仮面」といえば、ピンと来る人もいらっしゃるでしょう。これは、巨匠フニャコフニャオ先生の幻の作品『ライオン仮面』の登場ヒーローで、主人公であるライオン仮面がやられた後は、主役を張る存在にまでなったヒーローです。しかし残念ながら1話で敵の組織に捕らえられ、惨殺されてしまいましたが。しっかし毎回から必ずハラハラさせる展開で終わってたマンガだったよなあ……。
……って、そろそろやめましょうか。って、わりと多くの方が知っていると思われますが、これは『ドラえもん』単行本3巻の「あやうし!ライオン仮面」のマンガ内マンガです。

この話は、『ライオン仮面』でのラスト、最後にライオン仮面がやられてしまうところから始まります。そこで続きが気になったドラえもんが作者の元に行くと激動の展開にした後の続きに悩んでいる最中。そこでドラえもんはタイムマシンで1週後のライオン仮面を読みに行きます(この頃のドラえもんはわりと自由で軽いオバQ寄りのキャラでした)。そしてそれを見るとラストはライオン仮面の代わりに登場したオシシ仮面がやられているところ(ある意味「グエーッ」で有名なシーン)。そしてネタにつまり続けるフニャコフニャオに頼まれてその次の号を買ってくると、今度はいとこのオカメ仮面登場。それを続けていくうちに、フニャコフニャオは多忙で倒れてしまいます。そしてその代わり、ドラえもんがその未来から持ってきたマンガを模写して作成することに。そしてラストは「じゃあこのマンガを作ったのは誰なんだろう」とパラドックス的な展開で終わります。


さて、今回注目するのはこの『ライオン仮面』の展開。これ、作者フニャコフニャオがネタにつまってしまいますが、それの原因は間違いなく「毎回ハラハラさせていた」ことにあると思うのです。この作品では、ハラハラさせるために毎回主人公をピンチにします。しかしそれを切り抜ける手段を考えていなかったために、次々に新キャラ投入→ピンチで同じことを繰り返して(おそらくは)破綻します。
ただ、フニャコフニャオの立場に立って言えば、ここでライオン仮面が何度もピンチを脱出したら、もう誰も「ああ、今回もたぶん切り抜けるだろう」と思ってしまうので、ハラハラさせることが出来ないが故にそうし続けるしかなかったのかと。
さらに、一度衝撃の展開を迎えてしまうとその後はそれ以下のことをやっても読者は慣れてしまっていますので、インパクトを与えることは出来ません。ということは次に読者に前と同じようなインパクトを与えるためには、それ以上の衝撃が必要になるのですが、そうなるとやれることは限られてくるのですね。そしてスパイラルに陥ってゆくと。ちなみにおそらくは「死」はインパクトの最高点ですので、これ以上になると「死に方」くらいしかないかなと。つまりオシシ仮面の有名な「グェーッ」は、インパクトを出すという点で、理にかなっているのではないかと思います。

しかし、この『オシシ仮面現象』というべきもの、ここまではひどくなくても、あちこちにあると思いますちなみに「ライオン仮面現象」ではなく「オシシ仮面現象」としたのは、そっちのほうがインパクトがあったから。(ただはてなキーワードのオシシ仮面のとこに「オシシ仮面的展開」って言葉があったけどまあいいか)。

かつて『キン肉マン』や『魁!男塾』ではキャラが何人も死んでいますが、ほとんどの場合それは生き返り、後半になると誰が死んでももはや信用されなくなっていましたね(逆に本当に死んだ男爵ディーノや独眼鉄のほうがびっくりした)。あと、ドラゴンボールもそれになりかけていたので、『ドラゴンボールでの行き帰りは一度のみ』って枷がつけられましたね。もっともそれでも最後の方は誰も本当に死ぬと思ってませんでしたが(もっともこれも死後の世界が明るく描かれていたので、死に悲壮さがあまりなかったんですが)。


さて、こんなふうにハラハラな展開に毎回させるのは大変だというのがわかりますが、ただ、1回だけインパクトを与えるだけならば、後先を考えなければ実はそんなに難しくないのですよね。それは読者のまったく思い浮かばなかった展開、言ってしまえば伏線のない、もしくは薄いまま衝撃展開を出せばいいだけですから。キーワードとしては「死」「病気」「裏切り」などなど。
『タッチ』もあの和也の交通事故は当時とんでもないインパクトがありましたが、あれはそれまでにそういった展開が全くなかった故のものだったからと思います。そしてそれ以後は「死」の要素は作品中にほとんど出てきませんでしたからね(とはいえ、あれも和也の死を確認するまで、何週にもわたって伏線が張られた上でのことでしたからね。リアルタイムで読んでいた人は、驚いたけれどある程度何かが起きたことを予想していた人も多いと思います)。
たしかにインパクトを与えるなら誰かメンバーが死、とかになると大きかったかもしれませんが、それをあえてしなかったのは作風のほかにも上記インフレを防止するためってのがあったでしょう。そもそも準主役に匹敵するキャラなら、南を殺すしかないし。ちなみに、ドラマですが『スクールウォーズ』は逆に最初のイソップの死のインパクトが強すぎて、あとに2人死んでいますがあまり気にされないという……

つまり、こういった伏線がない強度のハラハラ展開ってのは、あまり使えない大技、例えば『ゲームセンターあらし』で言えば「スーパーノヴァ」みたいなものだと思うのですよ(だけどこのスーパーノヴァ自体使ったら死ぬ技なのに、何度も使われてたなあ……)。まあ、ずっとこのテンションを維持し続けていけるのならば止めはしませんが。
しかしなんだか少年誌のマンガにおける「強さのインフレ」(強い敵を倒したら、次はそれ以上強い敵じゃないと納得してもらえず、結果的に日本最強→世界最強→宇宙最強が相手にならないといけなくなる)と似たところがありますね。


最近ではマンガに限らず、アニメやゲームでもこのパターンに陥りがちなもの、もしくは一度インパクトを出したけど、その後それ以上のインパクトを出せずに尻つぼみになってしまったものが多い気がします。
ちなみに、この現象はその作品内だけではなく、その作者、ゲームの場合ならそのメーカーについてしまうこともあります。それはすなわち「この作者(メーカー)ならば、きっとどこかでハラハラする展開になるに違いない!」と読み手に思わせてしまうってことですね。たとえ平凡な作品を書いていたとしても。その結果、期待を裏切られずに、そういう作風になってしまって、常に上を行かなければいけなくなってしまうと。

今「オシシ仮面現象」になりつつあるもの、なっているもの、そしてすでにグダグダになってしまったもので、皆さんも思いつくものがいくつかあるのではないでしょうか。