空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

大学入試など公の人選評点においてTOFELを使うことのリスク

先日、中教審答申として、大学新入試を20年度から導入し、センター試験を廃止する方向に向かうという報道がありました。

■(archive)大学新入試を20年度から導入 中教審答申、センター試験廃止:一面:中日新聞(CHUNICHI Web)

実は、このニュースは部分的には以前から報道されていました。とくに英語に携わる部分。

TOEIC780点、英検準1級以上ならセンター試験英語は満点扱い 文科省(1/2ページ) - 産経ニュース (2013/12/31)

TOEICや英検などの英語資格試験を大学入試センター試験に活用する特例措置を、予定より前倒しして導入する方向で文部科学省が検討していることが 30日、同省関係者への取材で分かった。高校在学中にTOEICなどで高得点をとれば、センター試験の英語の得点を満点とする方針であることも判明。年明 け後の中央教育審議会で議論される見通しだ。

大学入試の新共通テスト、英語にTOEFL活用も  :日本経済新聞 (2014/10/24)

英語は「読む・聞く・書く・話す」という4技能を評価する方針を明らかにし、TOEFLなど外部の資格検定試験の活用も検討する。

このように、民間の英語技能試験としてのTOFELを利用する方針があがっています。一部には「TOFEL義務づけ」なんて主張もあったそうです。

H-Yamaguchi.net: なぜTOEFL義務付けなどという発想が出てくるのか

調べてみると、これにはどうも経済同友会などの経済団体の意向もあるようです。

同友会、大学の英語入試に「TOEFL」導入を提言--2016年までの実現を要望 | マイナビニュース (2013/4/23)

あと、大学受験ではありませんが、公務員試験に同じくTOFELを導入しようとする動きもあります。

三木谷氏推すTOEFL、公務員試験に(真相深層)  :日本経済新聞

たしかに、実践的な英語力を養うための改革というものは、これからの時代必要なものでしょう。

しかし、ここでTOFELなど、民間の試験を採用することにおいては、大きく注意する点があると思われます。

 

 TOFELは「外国の」「NPOが」主催するもの

まず、TOFELとは何かというと、言うまでもなく英語力を判定するテストです。もうちょっと詳しく言うと、非英語圏の住民を対象とした、英語圏の国へ留学・研究を希望する者の英語能力を測定するテスト。

そして運営はアメリカのNPOであるEducational Testing Service(ETS)。

TOEFL: Home

たしかに、TOFELなど英語の能力検定の幾つかは、現在、世界で広く信用を受けています。そして企業の採用や社内昇進基準としているところも多いでしょう。

しかし、それが「日本国内の」、大学入試や公務員試験といった「公的な」ものになと、話が変わってきます。

 

いきなり中止、終了するリスク

信用がある団体といっても、相手は海外のいちNPOなわけですから、経営上の都合等で突然終了、ということが絶対にないわけじゃありません。その時、受験制度が大混乱を起こさないでしょうか。何せそれのために勉強してきた人が多いわけですから。少なくともTOFEL優遇での入学や採用を目指していた人と、そうじゃない人の間に不公平が生じる可能性は高いでしょう。

そこまでいかなくても、国内じゃありえないくらいに方針が急激に変更するなんてこともあります。

さらに、そういう状況になることによって、TOFEL自体が日本の受験制度、もっと言えば人材を選抜するという制度に対して権力を持ってしまうことになるというのは、はたしてよいことか、というのがあります。

 

その試験の信用性がいきなり失墜するリスク

かつて、このような事件が起きています。

■(archive)TOEICとTOEFL、英ビザ申請に使えず 4月から:朝日新聞デジタル

2014年春、イギリスのビザの申請において、「TOEIC」と「TOEFL」が使えなくなったというニュース。こうなった理由は、2月の英BBCの報道において、ロンドンであったTOEIC試験で、替え玉受験や試験監督が解答を読み上げる不正(試験官が正答を読み上げて、2時間の試験が7分で終了)が行われていたと報じられたことによります。

つまるところ、このような不正が実際に行われた前例があるわけで、その時信頼戦が担保出来るでしょうか。それは当事者だけではなく、受験生全体の信用問題にもかかわってきます。下手をすればその制度を使ってそれまでに入学した人、もし公務員試験ならそれで採用された人までも。

そういえば数年前、大分の教員採用試験で不正があったということで取り消しになった件がありましたが、アレと同じことがもし全国的に発生したら、大混乱まちがいないです。

そういえば数年前、日本でも漢検を主催する漢字検定能力試験協会で役員の不正流用事件がありましたね。

漢検協会事件 - Wikipedia

 

流行廃り

昭和の頃は、英語のと言えば英検でした。しかし今はあまり言われなくなり、TOFELやTOEICとなっているわけですが、それも永遠に国際的信用を保っていられるかというと、必ずしもそうとも限りません。今の入試英語に変わるただの受験英語、それも日本専用になってしまうという可能性もゼロではありません。その時に柔軟に変えることができるでしょうか。

今でさえTOEFLよりIELTSのほうが英語圏では効果的、という意見も多く耳にしますし。

IELTS | 公益財団法人 日本英語検定協会

 

私企業と公的試験は違う

私企業が社員の能力を見るためにこれらを使うのであれば、別にその企業内部だけの問題ですからかまいません。しかし大学もそして当然公務員も公的なものです。それらに対してアメリカ、つまり海外の一企業に人材評定の基準を委ねるというのは、やはりリスクを伴うのではないかと思うのです。

別にTOEFLに限ったことじゃないです。もし海外のの団体に「この団体の成績で大学優遇するよ」という認可を与えたら「え?大丈夫なの?」と思う可能性はあります。いや、日本の団体でも同じく。たとえば漢検(昔は文部科学省が後援してた)でも、あんな不正が起こりえるわけで。

大学入試も、そして公務員試験も、人生の一時期(多くは1回)の出来事なわけです。しかしそれに向けて長い時間をかけて勉強する人も多いでしょう。特に語学なんてものは。しかしその時期に運悪くこれらに何らかの変動が起きてしまった場合、はたして国や大学は対処が出来るでしょうか。TOEFLの成績での大学入試を狙っていたのに、何らかの都合で中止とか信頼性がなくなった場合、その混乱の責任は誰が取るのでしょうか。

たしかにこれからの時代英語力は重要ですし、それらの認定に海外の検定への信用があるというのはわからなくはありません。しかし、上で語ってきたようなリスクを解消せずに安易に委託したら、最悪「受験」というものが崩壊しかねません。試験というものは、公平が絶対条件であり、それが消失したとき、その信用、そして存在意義までも一気に崩れてしまう可能性もあるものなので。

TOFELなど民間試験を使うにしても、その信頼性の担保、そして万が一トラブルや時流による変遷が起きたときにどう対処するかを十分に考えてから導入しなければいけないでしょう。

 

☆おまけ

http://dot.asahi.com/news/domestic/2013052200049.html