新卒要件緩和政策は実効を伴わないものにならないか

最近、ニュースではよく「雇用」についてのことが採りあげられることがあります。それは現在の就職率低下や雇用不況が問題になっていることや、それに対して菅総理大臣が代表戦の時から「一に雇用、二に雇用、三に雇用」等、繰り返し雇用について発言していることにより、雇用対策に注目が集まっていることによるものでしょう。

さて、この雇用対策のニュースでは、主にその柱として「新卒要件緩和」というのが出されることがあります。現在の報道などで目立っているのは、卒業後3年以内の学生を新卒とするという提案でしょう。
ただ、これを見ると私は雇用についてはほとんど素人なのですが、はたして実効性があるのか? というのを疑問に思ってしまうのです。というのは過去の雇用に関わる法律のことを思い出したので。その名前は男女雇用機会均等法(正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」)。


男女雇用機会均等法の隠れた問題点

「男女雇用機会均等法」は、名前くらいは聞いたことのある人も多いでしょう。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

軽く解説しますと、この法律は雇用による男女間の待遇の差をなくすために1986年に定められたものです。有名なのは1999年の改正で、ここで男女を特定するような呼称も変更をされ、保母さんが保育士に、看護婦さんが看護師、スチュワーデスが客室乗務員に変更になったことですね。これでそれぞれのマニアが泣いたとか泣いてないとかはおいといて。

さて、この法律では求人において男女の差をつけることを、第五条で禁止しています。

第五条  事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

これにより、求人の際、原則として男性を募集しているか、もしくは女性を募集しているかというのを表記できなくなります(一部その職業が片方の性別であることが必要な場合は例外あり)。

この法律によってあらゆる場所で男女平等に雇用が行われるようになったか、というとそんなことはありません。もちろん改善が全くされていないとは言いませんが、ある面によってはそれまでのようにしっかり男性希望、女性希望と書かれていた時よりもひどくなっているところもあると言われています。

たとえばとある企業がその職務上、男性社員、もしくは女性社員が欲しいと意図して求人をかけます。しかし求人では男女の表記が出来ないので、それを書かずに出します。そしてそれを見て連絡をしてくる人がいるのですが、意図している性別と違う場合、企業はそのまま雇うか判断するより、実際はそこで切り捨ててしまう場合が多いと考えます。それは雇用側の悪意的な場合(たとえば恋人探しや愛人探しを目的として女性社員を雇用するとか)だけではありません。男性だけ、もしくは女性だけで固まっている職場の場合、そこでもう片方の性別を入れることはその事業においていろいろとリスクを伴ってしまう場合も現実的には存在するからです。たとえば更衣室が片方しかない場合、もう片方のを用意しなければいけませんし、その他仕事でもいろいろと不利益を被る可能性があるからです。もちろんその体制を良しとするわけではありませんが、現実的に雇用者は安定をしたほうをとってしまうでしょう。

で、こうなった場合性別で雇用判断をしているということで雇用機会均等法にひっかかるわけですが、多くの場合それは表面化しないでしょう。というのは、何も男女を判断基準として落としたと言わずに、その他の面、たとえば能力がこちらの求めるものと合わなかったと言うでしょうから。また、無理難題をふっかけて相手から辞退させるようなこともあるでしょうね。

しかし、ここで求職者の側から見てみると、男女の差で落とされたことは表面化しませんから、「自分の実力が足りなかったから落ちた」ということで落ち込んでしまうことになります。さらに履歴書や面接に費やした時間、履歴書代、切手代、面接に行くまでの交通費だけがかかることになり、余計な負担がかかるようになったという側面があるのも否定できないでしょう。その結果、そういった求人票に書いていない、この企業は男女どっちを望んでいるかといったような空気を読むみたいな余計な手間がかかるようになってしまったのかもしれません。

もしかしたら性別などを理由に落とされたことを疑い、徹底的に企業と争う人もいるかもしれませんが、それはごくごく少数でしょうね。だって求職者の多くはそこまで時間的、財政的に余裕もないわけですし。

いくら新卒を言い換えたところで企業が求人したい人は同じ

このように、雇用においては「本音」と「建前」が使い分けられることによって、法律の定めを回避することが(全部とは言いませんが、それなりの部分で)可能になっていると思われます。

つまり、新卒後3年の規定も、それと同じ轍を踏まないか、という懸念を持っているのです。

日本の企業では今まで新卒偏重と言われ、それが故に今回最初のような新卒条件緩和につながっているわけですが、今まで新卒偏重だったのは企業側にとってはそれがプラスだったから行われてきた面が強いでしょう。よく言われるところでは、他の企業文化に浸っていない人間をその自社の企業文化に染めることが出来るあたりでしょうか。

■参考:新卒枠での既卒者募集25% 年齢や卒業後の期間が壁 - 47NEWS(よんななニュース) ※リンク切れ

そうなると、仮に国が新卒後3年の規定を定めたところでそれに従わず、やはり大学を出て間もない学生ばかり採用するという傾向が生まれないでしょうか。しかし企業は多くの場合、「いや、卒業とか関係なく能力で判断しているから」と答えるような気がします。
そうなると、既卒なのに「新卒」と定められた就活性(「既新卒」あたりの言葉が生まれそうだなと思ったり)が、上の男女の違いで落とされた人のような苦労を背負ってしまう可能性も出てくるのではないかというのを危惧しています。

そもそも「新卒」というもの自体、あくまで企業が決めた概念であり法で明確に定められているものではないと思うので、それに法的な定めをつけたところで、あまり意味がないような気がするのですが(この辺も詳しくないのですが、何か「新卒」が法として定義されているようなものがあるのだったら教えてください)。

補助金による詐欺もどきが発生しないか

もし、既卒者採用に効力を行うとすれば政府が補助金を出すなどでしょうが、こっちも危険性を伴うと思っています。

現在、一度出した内定を取り消す「内定取り消し」が問題になっていますが、これには内定取り消しをした企業を公表するという防止策が出されていますが、今度は内定を企業側からは取り消さず、本人に辞退するように仕向けるという手段が出てきています。たとえば研修中のいじめに近い行為などですね。最近話題になったのは、以下のものでしょうか。

同じように、入社した後の会社の経営状況により、やめさせるような手段もあると聞きます。これと同じようなパターン、つまり採用して補助金を入手したあと、やめさせるように仕向けるということが行われる可能性もないとはいえません。


雇用という営利活動

このように、企業における「本音」と「建前」が横行し、結局問題が解決しないばかりか、出てきた問題が「建前」により潜在化してしまう可能性もあるように思われます。日本には本音と建て前の使い分けがよくあると言われていますが、雇用市場はその最たるものだと思っています(ま、それは雇う側だけではなく、雇われる側にも言えることでしょうが)。

しかし、あえて企業の側から言うと、「雇用」というものは一般企業にとっては慈善事業ではなく、それも立派な営利活動の一部と考えることが出来ます。なぜなら、その人の働き次第で自社の利益が大きくプラスになったりマイナスになったりすることもあり得るのですから。だからある意味そのような重大な会社の方針決定に対し、外部から口を挟めるかというと非常に微妙なのですよね。一応誤解なきよう書いておきますが、自分は新卒偏重に反対で、既卒者に対しても新卒者と同等以上に雇用されるべきだと思っています。だいたい就職口がないから留年ってのは大学を学問の場と考えるとおかしな話ですし。ただ、それでも一企業の業績にかかわる方針に(それが正しいか間違っているかはともかく)公的機関が必要以上に介入することは出来ないのではないかと。
このあたり、雇用の失敗が死活問題になる企業と、必ずしもそうではない公的機関のずれが生じている、と言ったら、さすがに公を舐めすぎと言われるでしょうか。

では新卒以外の採用を増やすためにどうすればいいかということになりますが、個人的には、「新卒」「既卒」という雇用形態による差を強く禁止でもして、それがわからないままに採用活動を行うくらいしなければ、現在における新卒とそれ以外の雇用格差はなくならないような気がします(それでもまだ新卒にこだわり続ける場合残り続けるとは思いますが)。



ただ、今日の話題に挙げた「卒業後3年新卒」について、提言を行った日本学術会議は、報道でそこだけがクローズアップされてはいるものの、対策における中心ではないとされています。

asahi.com(朝日新聞社):「卒業後3年新卒扱いに」の意味は 高祖敏明・上智学院理事長に聞く - 教育

つまり、この新卒3年のこと自体、もっと広く社会における大学の役割を再検討し、高等教育の質向上について議論することの一部でしかないということ。そしてこれだけでは解決にならないというのも勿論理解されているようです。雇用対策についてはまだほとんど形となっている情報が出てきていないので、これからどのような具体案が出されるかわかりませんが、今日書いてきた問題もそれが「本音」と「建前」で分かれ、実効性のないものにならないような対策がどのように練られるのか、注目したいと思います。