非実在青少年条例はコミケに影響するか

※この記事は2010年5月31日に書かれたものです。

東京都青少年育成条例のほうは2月末の改正案(非実在青少年)が発覚した時からはあり得ない程の盛り上がりとなっております。そのへんは長い間更新停止していたうちよりも詳しく書いてあるサイトがたくさんありますので、そちらを参照していただくこととして。

■参考:東京都青少年健全育成条例改正問題(非実在青少年問題)のまとめサイト ※現在は終了

ちなみに反対署名を山口貴士弁護士が募集しておられます。第一〆切は6月4日(金)ですが、継続して募集中とのこと。

「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案に反対する請願署名」を始めました。: 弁護士山口貴士大いに語る

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1990年代前半に起きた同人誌即売会中止事件

東京都青少年育成条例における表現物規制ですが、私の場合はこの動きが20年前のマンガ規制の動き、いわゆる「有害コミック騒動」の動きと非常に似ているところから危機感を抱いたというのは、前のエントリーなどでも書きました。

東京都青少年育成条例改正案における表現規制の危険性について語る
前々から話題となっていた、表現規制を含む東京都の青少年育成条例が提出されたようです。 ■番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言 これのソース元はここみたいですね。 ■The Prefectural Ordinance about young healthy upbringing (a reform bill) - 2010/2/24 まだ断片的な情報なのですが、かなり見た時に「ネタ?」と疑いました。事実、今でもかなり信じられない感じです(もしネタだったら「よかった……変な改正案は存在しないんだ」とでも言って、ウイスキーでも飲みます)。というのは、あまりにも法律としてその定義が曖昧であり、このまま施行してしまうと運用次第ではとんでもないことになってしまうので。しかし多くの人(特に表現物になじみの薄い人)は「そのようなこ...
20年前の有害コミック騒動で有害指定された実例から範囲拡大の危険性を考える(前編)
現在、ネット上に限らず「東京都青少年育成条例」の改正案の件が話題になっています。うちでも以前書きました。 ネット上での意見を見ていると「条例案はゾーニングを目的としていて、創作物を弾圧するわけではないのに、何故反対するのか」という声も聞かれます。これを反対の人が見ると、そういう人はマンガに悪意を持って規制に賛成している、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。 しかし冷静に考えてみると、それは別にマンガに悪意を持っているという人ではなくても、知らないのだったらそう考えるのはそこまで不思議ではないと考えます。たしかに条例だけ見ると、その法律における表現に関しての部分はゾーニングであり、表現自体には特に影響がない、と思われる方がいても不思議ではないでしょう。それに、拡大解釈の可能性を疑い続ければ、きりがないというのもわかります(軽犯罪法とか銃刀法の刃物規定を厳密に使えばす...
20年前の有害コミック騒動で有害指定された実例から範囲拡大の危険性を考える(後編)
さて、前回の続きです。前編を読んでいない方は是非そちらからお読みください。
1990年代のマンガに対する表現規制運動である、有害コミック運動はそれからどうなったのか。

今回の場合市民運動からの盛り上がり→法規制への動きではなく、市民運動の盛り上がりもそれほどあったわけでもないのに法規制への動きになっているあたりがさらに悪いのですけどね。

さて、これらは主にコミック、それも男性向けコミック(+PCゲーム)の話でしたが、実は同人誌においてもこれら規制の波というのは起きていたのです。そしてその最たる動きにおいては、あともう一歩でコミケが中止に追い込まれてしまうところでした。それは「幕張コミケ事件」。少し前まではコミケ参加者にとってはわりと有名な事件でしたが、もう16年も経っていて参加者の中にも知らない人が多くなってきたと思われるので、今日はちょっとその説明から入ってみることにします。

幕張コミケ中止事件

コミックマーケットは長い間晴海の東京国際見本市会場や羽田の東京流通センターで行なわれておりましたが、その人口の増加に伴い手狭になってきました。そこで1989年冬のC37から、出来たばかりの広い会場、幕張メッセに移転することになります。当時の入場者数は約12万人でしたが、次のC38には23万人まで増えたとのこと。

しかし、1990年始め、前に説明したように「有害コミック運動」が巻き起こります。そして日本全国各地で青少年条例が制定、強化され、成年向け要素を含むマンガをはじめとしたマンガ全般に規制の波が降りかかります。そしてそれは盛り上がり始めていた同人の世界においても同じでした。1991年2月、成年向け同人誌を販売していた都内書店の店長が、警察に逮捕されるという事件が起こります。このあたりの経緯はちょっと複雑な要素も加わるようなのですが、それについては以下のサイトに詳しく書かれておりましたので、ご一読ください。

『Get Wild ’91』1991年 – 書店摘発〜表面張力〜幕張追放 – よつばのはて。

そんな同人誌に対する風当たりが強くなる中、1991年3月、次回C40のコミケも開催予定であった幕張メッセから、コミケット準備会がいきなり一方的なキャンセルを言い渡されるという事件が起こります。すでに申し込みが完了しており、次回開催まで3ヶ月しかない時のことでした。こうなった原因は、幕張メッセを管轄する警察署に、ある一個人により成年向け同人誌が持ち込まれたことによるものと言われています。ともあれ、これで幕張メッセでの次回コミケ開催が不可能になり、コミケット準備会は次の会場を探します。そして運良く、晴海会場が空いていたためにそちらでの開催となります。但し、そこでは、ワイセツ図画とみなされる同人誌が売られることが無いように万全の対応策をとるという条件提示が為され、厳しいチェックがなされることになりました。その後なんとかコミケはしばらく晴海で開催、そして東京ビックサイトに移ることになります。

今までのコミケの危機というのは何度も言われていますが、この時が最大の危機だった、というのはよく言われるところです。バブル崩壊後、幕張メッセのイベントは数が減ったことから、近年復帰を打診されたという話もありますが、古くからのコミケスタッフや参加者からすると、いまだに幕張メッセに拒否反応が起きているという話です。

Comic City in 幕張事件

しかし、幕張メッセにおける同人の事件はこれだけでは終わりませんでした。

1994年春、千葉県の青少年健全育成条例における有害図書の追放条例が大幅に強化されます。これは事実上、成年向けを含む同人イベントが行えないくらいの厳しいものだったそうです。そんな中、10月に予定されていた「Comic City in 幕張」が、9月末にいきなりドタキャンとなる事件が起きます。しかしインターネットもメールも携帯電話も普及していないこの時、通知が間に合わず、当日になってその中止を知るサークルや参加者が多発し非常に混乱を極めました。

おまけにこの主催者元である赤ブーブー通信社は、その後自ら男性向けサークルを警察に通報、逮捕という事態が起きてしまいます。現在、「Comic City」は女性向けではコミックマーケットに次ぐ大規模なものであるにもかかわらず、男性向けでの参加は殆ど全くと言っていいほどない(男女両向けはありみたいですが)のは、幕張コミックシティ事件以来、男性向けサークルの間で同イベントへの信頼がゼロになってしまったからだと言われています(現在は同じ経営元の青ブーブー通信社で男性向けが主に関西で行なわれています)。

ちなみに私は幕張コミケ事件やComic City in 幕張事件においてはにおいては、リアルタイムでは経験しておりません。ただ、コミケに参加し始めた頃(1990年代末)にはまだこの影響が残っており、他の参加者に語り継がれていたのを聞いていました。このへんまだインターネットが普及する前なので情報があまり残っていないのですが、当時のことを知っている人は自分のブログなりに書き残しておくと後世役に立つかもしれません(伝聞より実際に経験した人が書いた方が説得力あるし)。

■参考:幕張メッセ/ 同人コミケ用語の基礎知識

非実在青少年条例にある「青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた責務」

これらが示すように、政治、行政の動きが少し変わるだけで、同人イベントというのはいとも容易く中止に追い込まれてしまう可能性があるのです。
さて、今回の東京都青少年育成条例が仮に成立していた場合、8月に行なわれるコミックマーケットを始め、同人誌即売会に影響を及ぼしていたでしょうか。これは実際にそうなってみないとわからないのですが、私の考えとしてはもし成立していたら、何らかの、場合によっては影響を及ぼしていたと考えます。それは条例における以下の部分からそう考えられるので。

(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた都の責務)
第十八条の六の二 都は、児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項に規定する児童ポルノをいう。以下同じ。)を根絶すべきことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と連携し、児童ポルノを根絶するための環境の整備に努める責務を有する。
2 都は、青少年性的視覚描写物(第七条各号に該当する図書類又は映画等のうち当該図書類又は映画等において青少年が性的対象として扱われているもの及び第十八条の六の五第一項の図書類又は映画等をいう。以下同じ。)をまん延させることにより青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と連携し、青少年性的視覚描写物を青少年が容易に閲覧又は観覧することのないように、そのまん延を抑止するための環境の整備に努める責務を有する。
3 都は、みだりに性的対象として扱われることにより心身に有害な影響を受けた青少年に対し、その回復に資する支援のための措置を適切に講ずるものとする。
4 都は、事業者及び都民による児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延の抑止に向けた活動に対し、支援及び協力を行うように努めるものとする。

(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた事業者の責務)
第十八条の六の三 事業者は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
2 事業者は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、その事業活動に関し、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、他の事業者と協力して、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないようにするための適切な措置をとるように努めるものとする。

(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた都民等の責務)
第十八条の六の四 何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する。
2 都民は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
3 都民は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないように努めるものとする。

(青少年を性的対象として扱う図書類等に係る保護者等の責務)
第十八条の六の五 保護者等は、児童ポルノ及び青少年のうち十三歳未満の者であつて衣服の全部若しくは一部を着けない状態又は水着若しくは下着のみを着けた状態(これらと同等とみなされる状態を含む。)にあるものの扇情的な姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として描写した図書類(児童ポルノに該当するものを除く。)又は映画等において青少年が性的対象として扱われることが青少年の心身に有害な影響を及ぼすことに留意し、青少年が児童ポルノ及び当該図書類又は映画等の対象とならないように適切な保護監督及び教育に努めなければならない。
2 事業者は、その事業活動に関し、青少年のうち十三歳未満の者が前項の図書類又は映画等の対象とならないように努めなければならない。
3 知事は、保護者又は事業者が青少年のうち十三歳未満の者に係る第一項の図書類又は映画等で著しく扇情的なものとして東京都規則で定める基準に該当するものを販売し、若しくは頒布し、又はこれを閲覧若しくは観覧に供したと認めるときは、当該保護者又は事業者に対し必要な指導又は助言をすることができる。
4 知事は、前項の指導又は助言を行うため必要と認めるときは、保護者及び事業者に対し説明若しくは資料の提出を求め、又は必要な調査をすることができる。

■引用:番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言

この部分における「青少年性的視覚描写物」は「第七条各号に該当する図書類又は映画等のうち当該図書類又は映画等において青少年が性的対象として扱われているもの及び第十八条の六の五第一項の図書類又は映画等をいう」と定められています。で、第七条には「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)」という「非実在青少年」の定義が定められております。つまり創作物も含まれます。
で、第十八条の六では「青少年性的視覚描写物」を蔓延させないために都や都民、事業者がその責務を負うことが規定されています。つまり、この条文に基づくと、非実在青少年の性描写を含む同人誌において、それを蔓延させないためということで、事業者である施設(東京ビックサイト)にその責務があるということで会場の貸し出しを禁じたり、コミケット準備会にコミケを中止するよう「必要な指導又は助言」をすることが出来てしまうと考えられるのです。それ以外にも、印刷所、宅配便などコミケほか同人誌即売会にかかわるものにおいて、その責務を理由に同様のことが行えるとも考えられます。

さらに注目すべき所があります。それはこの改正案における付則。

1 この条例は、平成二十二年十月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第一条の規定平成二十二年四月一日
二 第二条の規定中目次の改正規定(「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備(第十八条の六の二)」を「児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向欠た気運の醸成及び環境の整備(第十八条の六の二―第十八条の六の五)」に、「(第十八条の七―第十八条の九)」を「(第十八条の六め六―第十八条の八)」に改める部分に限る。)、第七条、第九条の三及び第十八条の六の二の改正規定、第三章の三中第十八条の六の二の次に三条を加える改正規定、第三章の四中第十八条の七の前に一条を加える改正規定、第十八条の七の改正規定(同条に一項を加える部分を除く。)、第十八条の八の改正規定並びに第十八条の九を削る改正規定並びに次項及び附則第三項の規定 平成二十二年七月一日

■引用:番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言

法律においてその施行は成立から一定期間が置かれます。成立後即時に行なわれる場合もありますが、その場合は何らかの理由、事情がある場合がほとんどです。それは即時性が求められる場合や、人命にかかわる場合などですね。しかし、この改正案に置いては、全体としては平成二十二年十月一日からの施行であるにもかかわらず、いくつかの条文においては平成二十二年七月一日からの施行と規定されています。そしてそれは例の非実在青少年を定めた第七条や第十八条の六など、創作物規制の部分となっています。となると、8月に行なわれるコミケを前に、それに何らかの形でこの法律を使うためにこの部分の施行が早まっているのでは? という考えが働いてしまうのです。

青少年育成条例がそうであるように考えすぎ、と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、最初に書いたように、過去に実際に同人誌の即売会会場の貸し出しをドタキャンされた事件はあり、そしてそれは公的機関における指導や条例の影響だったのです。

ともあれ、施行がされていた場合、会場貸し出し停止まではいかなくても、何らかの影響はあったと考えます。ちなみに現在、一回でもコミケをいきなり直前にキャンセルされようものなら、あらゆる産業(サークルに限らず宅急便から交通、印刷所から飲食業等々)に影響があると思われます。ちなみに「コミケがなくても委託ショップで買えばいい」という発言がまれに聞かれることがありますが、法的、商業的、流通的な面から非常におめでたすぎる発想であるとも付け加えておきます。

まだ状況は予断を許さない感じですが、たとえこの条例改正問題を切り抜けても、コミケほか同人誌即売会は何かあったら終了の可能性が高いという綱渡りで運営されているということは、新しい参加者にもよく理解してほしいところだと思います(コミケカタログを読めば、しつこいくらいに書いてあるのだけどね)。

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