空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

新聞社の持つ『過去の記事』という資産は個人に対して向けられないのか

最近の新聞社の経営難のニュースを聞く限り、広告収入のみで購読者にとっては無料なネットからどうにかして収入を得たいというのは本音と思ってもよいでしょう。そして、実際にアメリカではそれを実行に移そうとしています。

■参考:米新聞・雑誌、電子版の有料化広がる ビジネス-最新ニュース:IT-PLUS
■参考:メディア王「ニューズ・コープ」が新聞社のニュースサイトを有料化へ - 不景気.com | アメリカ, イギリス, オーストラリア, 赤字, 新聞,

日本でも、おそらくこれの様子を見てから実行に移してゆくのではないかと。ただ、ネットでのニュース記事の有料化については有料になっても見る人は現在の広告収入で得られる金額を超える程いるのかとか言われているので、うまくいかない可能性も高いでしょう。実際、ネット上で直接ユーザーから料金を取るという形で有料化がうまくいったサービス自体、かなり限られていると思われます。

で、ここで思うことがあります。新聞社など報道各社は、何故「過去の記事」という資産を、ネット上の大勢に対して行わないのかということ。


ご存じの方も多いでしょうが、多くの報道機関ではネットでニュースを公表しても、一定期間(多くは1年以内)に消えてしまいます。つまり、ちょっと前に何が起こったか検索しても、出てくるのはニュース記事そのものではなく、それを引用したブログとか、2chニュース系板の過去ログなのですよね。自分はTimestepsで翌過去の出来事を検索して調べるのですが、ニュースソースが欲しいのにそれが出てこなくて、結局上記のような2chの過去スレやブログの引用から情報、それも時には断片的なものを得ることが多いです。さて、最初のリンク先にも出てくる日経テレコン21 野村版では、たしかに過去10年の記事検索が(前までは)出来たようです。

無料で日経四紙の記事を検索・閲覧・保存する - チラシの裏

しかしこれ、日経テレコン21のサービスの(文字通り)野村版なのですよね。で、1975年以降のニュースが検索できる日経テレコン21は、代理店との契約が必要という、明らかにビジネス利用向けのもの(1IDの基本料が8000円のようです)。つまり、野村の利用は例外的な裏技として、本来は個人がちょいと検索するようなのには向けられていないのですよね(ちなみに他にそれらしきサービスをほかに知らないので、個人向けで報道社がやっているようなサービスがあったら教えてください)。

追記:朝日にも「キジサク」というサービスがあるようです。

現在、最初に書いたように新聞社は新たな収入ルートが欲しいはずですが、個人に対してのこのようなものはありません。しかし、個人に対しても需要はあると思うのですよね。

私の場合、Timestepsを書いているときに、過去のニュースは同時どのように報道されたか、そしてそれから数年後にはどうなったのか(例えばどういう判決が出たのか)なんてのを調べることは多いのですが、けっこう苦労しているのですよね。というのは、前述のようにニュースが消えているので。なら他のソースをと探すのですが、ソースとしてよさそうなものがなかなか出てこない。それでも転載された記事を信用して出すのですが、なんとなく「もし間違って転載されていたらどうしよう」とか思うわけですね。
マスコミに対しては、なんだかんだ言ってもそういった客観的事実に対してはある程度の信用が置かれていると思います(もちろんその媒体によって、もしくはニュースの伝えられ方によって違うと思いますが)。前から言われていることですが、現在のネット上のニュースソースはほとんど報道機関からとられていますし(これからは報道機関以外にも独自に一次ソースを構築していければおもしろいとは思いますが、その話は別の機会に)。故に過去のニュースについて調べて、それをソースとして出す場合、一番説得力のあるのは、報道機関ですでになされたものなのです。さらに、ニュース以外にもデータが何かを書くのに参考になります。政治で言えば政党支持率の移り変わりとか。他にも、相場の移行状況なんかも見られますよね。

つまり、過去の新聞記事というのは、現代のネット社会においてかなり価値のあるものだと思うのです。そしてそれは企業やビジネス利用目的だけではなく、個人の利用においても。それは、ニュースの利用方法に関しても、昔とネットの普及した今でははだいぶ変わっていると思うからです。ネット普及以前ならば、ひとつのニューストピックは報道してそれを受け手が知る、で終わっていて、そこから意見なり言論なりを再生産するのは狭い範囲(身内との会話など)であり、広い範囲にそれを広めるのは、媒体を使える論者がしかいませんでした。しかし現代はネットが普及し、ブログその他で誰もがそのトピックに対して語ることが出来ます。ならば、そういった時に語るための材料として、過去のニュースというのは多くの人に需要が高まっているのではないかと。たしかに、それまでも新聞の縮小版というものはあり、図書館に行けばそういった物は置いてありました。しかしこれはわざわざそういったものが置いてある場所(図書館)に出向く必要があり、且つ検索も出来ないため、それなりの研究なりをする人でなければ使わなかったでしょう。しかし、これも同じようにネットで見ることが出来れば、かなり広範囲の需要があるように思えるのです。

そこで、個人的にはこれら過去の新聞記事を閲覧し、そして引用出来るのだったら、月に数百円くらいは十分払ってもいいと思うわけです(リンクもできればなお良し)。検索して眺めているだけでも、Wikipediaに出会った当初同様ハマりそうですし。感覚としては、最近上場したクックパッドの有料版を使う感じ。記事をクリッピング出来たり整理したり出来れば、ますます需要が上がるのではないかと。形としては、最初はとりあえず、ネットでニュースが始まって、データがあるはずのここ10数年を先に公開して、それからそれらの魚拓が存在しない過去のニュースをネット用にアーカイブが増えていくと望ましい感じですかね。


さて、報道各社がこの経営難にもかかわらず、そのようにしないのは何故か。まず考えられるのは過去のニュースでもとをとれるほどの金を取れるとは思っていないことではないかと(少なくとも、現行のビジネスユース向けの少数高額を超えないという感じ)。それに著作権法の問題もあるかもしれません。しかし、現在でもすでに縮刷版が出ているということは、それの応用をネットでやるだけですから、可能だとは思うのですよね。

■参考:読売新聞 縮刷版 CD-ROM : 読売新聞社 CD-ROM・DVD Lineup : データベース : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

もし、既存のパッケージ縮刷版と食い合い、こっちが売れなくなるというのもあるでしょうが、こういったデータはあまり個人で手に入れる人はいないのではと(それに図書館行けば書籍版の方はありますし)。なら、薄く広く取れる仕組みを作るのは悪くないのではとも思うのです。

あと、この価値に気づいていて、それを開放しないという可能性もありますね。そうだとしたら宝を抱えたまま時代と共に衰退してくれとしか言い様がないですが。


ともあれ、すでにネットで流れたニュースは消しても、転載なり魚拓なりで残っているのですから、いっそのことまとめてもいいと思うのですよね。最近NHKアーカイブスとかで、過去の番組が注目されていますが、報道(テレビニュースも含めて)にもそれだけ注目されうる力はあるのではと思うのです。なら、個人に向けてそういったニュースを開放して欲しい、と思ったりするわけです。まあもちろんその金額や条件の設定が難しそうですが、折り合いがつかない、ということはないでしょう。

というか、今のうちに場を作っておかないと、将来やってくる存在があるような気もします。それはGoogleの存在。最近、Googleブックスが話題になっています。

Google ブックス
日本の書籍全文が米国Googleブック検索に? 朝刊に載った「広告」の意味 - ITmedia News

Googleは、世界中の出来るだけ多くの情報を取り出せるようにしたがっているとするならば、そのうちGoogleが潰れそうな大手新聞社を買収して、過去ニュースの開放をやるんじゃないかなあという予感もしたりします(もしかしたらやったとしてもGoogleが無料で攻勢を仕掛ける可能性もなきにしもあらずですが)。

追記:調べたらもうアメリカではやっているようで(全文ではないかもしれないですが)。

Google、過去200年分の新聞雑誌記事検索サービスを開始
Google News Archive Search(英語)


どんな形であれ、広い範囲や時代のニュースが楽に、そして手ごろな価格でネット上で取り出せるように出来れば、ネット上でもっと情報の広がりが出来るような気がするのです。まあ、私的な本音は、ブログのソースにするニュース検索するの疲れるので、手軽に取り出せる方法が欲しいというところなのですが。