空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

マンガ雑誌の不況に対して同人界は盛況? いやそれは違うだろという話

このようなニュースがありました。

ねとらぼ:「今、漫画雑誌の編集長が集まると、お互いのヤバイ自慢が始まる」 - ITmedia News

このニュースはマンガ雑誌不況の話ですが、ここからコメントで「同人界は盛況なのに」など、同人のことについて触れられているものがあります。まあ、コメントの人が言いたいことはなんとなくわかります。つまり今の同人界はネットなり即売会なりであれだけ賑わっているのに対して、このようなニュースが流れるくらいマンガ雑誌は不況だと。ただ、正直この見解は大幅に間違っているように思えます。それは同人の状況が規模が、マンガ雑誌とはまるで違うから。まあ同人に実際参加している人はすでにおわかりの方も多いと思われますが、こう書かれるということはそれを知らない人もいるということですので、ちょっとそれについて書いてみようと思います。



まずそもそも、同人市場とコミック雑誌市場を比較することは出来ないと思われます。それは規模がまるで違うから。
正直、同人の市場ってのは思っているよりはるかに小さいものです。月刊マンガ誌の中でも発行部数が低いと言われているコミックビームの部数は約25,000部ということですが、しかし、どんな巨大サークルでも、一回のイベントでそれだけの部数を売るサークルはありません。さらに書店委託を含んでも、万単位であるサークルのごくごく一部しかないでしょう(そもそも、月刊誌と同人誌1冊を比べること自体無理がありますが)。

■参考:社団法人 日本雑誌協会

■参考:1回のコミケでひとつのサークルが売れるであろう最大数を計算で割り出してみる - 空気を読まない中杜カズサ

たしかにコミケの参加者、そして同人の購買層はもっと広いでしょうが、マンガ雑誌の市場は比較にならない広さがあります。取り扱っている書店の数も、会社の規模も、そして読者も。同人の有名なものはマンガの最低ラインを越すでしょうが、その他になると圧倒的に差がつきます。つまり、同人というのは盛り上がっているように見えても、「市場的には」あくまで局地的なものでしかないのですね(故に同人なのですが)。なので、この比較自体できないということになります。


さらに、こっちを言っておきたかったのですが、同人のほうがその市場が崩れる可能性はマンガ雑誌よりよっぽど高いです。これは同人に関わる人には知っておいてもらいたいので、わかる人には重複になりますが書いておくべきでしょう。

まず、コミケなど販売する場所の問題。現在、人は増加しているのに、それを受け止められる条件の揃った会場は減っています。コミケでの東京ビックサイトが最後の砦と言われており、ここで何か起きたらもう開催できない可能性が高いです。それ以上のキャパを持つところは確保が困難です(今度のコミケットスペシャルは水戸ですが、あれはスペシャルだから出来ることであって、夏冬規模のは現状では不可能ではないかと)。広さの問題だけではなく、ほかの都産貿など既存のところでも同人イベントへの貸し出しが難しくなっています。

正直、ギリギリのところを、スタッフの努力やその他参加者の協力によって何とかやっているという側面があるのです。こんな状況は10年以上続いていると思います。そう、盛況に見えても綱渡りなのです。故に一人一人がそれを心がけて、コミケを潰さないため行動して欲しいということで(たとえば徹夜しないとか、座り込まないとか、走るなど怪我をするような行為はしないとか)。

なら、書店委託があるじゃないかと言う人がいるかもしれませんが、こちらも非常に綱渡りです。同じ事はイベントにも言えますが、特に著作権の問題が主にあります。現状、著作権は黙認されていますが、ある日突然それがなくなる可能性はないとは言えないのです。少なくともイベントでの販売はファン活動としながらも、書店委託は営利活動とみなしている版権元も存在しますので。現状、同人は「黙認」という権利者の温情で成り立っている面があるのを忘れてはいけないでしょう。それは東方などの同人オリジナルでも同じで、ちゃんと著作権者(東方の場合はZUN氏)が存在していますが、その人が認めているので出せるのであって。

あとは、成年向け問題もあります。今法律制定で騒がれていますが、いつどうなるかは全くわかりません。そして法が最悪の形で制定された場合、同人がその温床とされ排除される可能性は全くないとは言えません。



このように、同人の繁栄はある意味一時的な繁栄にもなり得るのです。その意味ではコミック雑誌とはまた別の、衰退の可能性を抱えているということになります。

ま、個人的には同人は市場としては、すなわち経済規模的にはそれほど大きくなる必要はないと思っています。あくまで好きなものを好きなように表現できる場が整っていればそれでいいのではないかと。同人活動は、あくまで表現したいものがあったり、ファン活動をしたかったりと、「趣味」でするのが本質だと思っていますので。ただ、それの最低線も出来なくなる危険性があったりするのが現状なので、同人を楽しむのはもちろんよいのですが、同時にその認識だけは新しく入ってくる人も持って欲しいなと思ったりするのです。全員がそう認識すれば、コミケで徹夜号列作る人はいなくなるはずですので(つまり、コミケで徹夜行列をしている人はどういう頭をしているか……)。