物語の「絶対的悪役」が「悲しき悪となる瞬間」〜『オルフィーナ』のラスキン考

※今日は『オルフィーナ』のネタバレを含むので、ご注意ください(『神様ドォルズ』もちょっと)。

『神様ドォルズ』3巻を読みました。

前半は詩緒の表情変化が前にも増して激しくなっているのが見所ですが、後半は物語の根底を説明するシリアス展開となります。そこでは過去に村で起こったことが明かされます。衝撃的だったのは、1巻、2巻では都会で殺人をしたり、過去画像で斬殺をしたシーンなどが一部見られ、言動などからも快楽&猟奇殺人者とされている傾向があった敵役、阿幾の過去が明かされ、実はそうなった理由もちゃんと村における生い立ちに原因があるという点でした。

近年では最初から敵側の立場が描かれる作品が少なくありません。そして味方には味方の、敵には敵の立場があり、相手が絶対的な悪ではないというものが描写されることもよくあります。そんな敵の表現の中でも特に衝撃的なのは、最初は絶対悪として描写され、読者もそう認識した頃にいきなりその敵役の視点、立場が描かれ、相手が何故絶対悪と思わせるような行動に出ているのかというのが描写される時です。そしてそこには、本来歩んでいれば悪に染まるはずはなかったのに、状況によりそうせざるを得なかったという悲しみを与えてきます。ドラマや映画でもありますよね。悪役の過去回想が入ってきて、最後死亡する時に「はあ〜、俺、どこで間違っちまったんだろうなあ……」とつぶやきつつ息を引き取るような感じが。

具体例のひとつとして、ゲームの『リンダキューブ』(PSでは『リンダキューブアゲイン』)というものがあります。これのシナリオAでは「ネク」という大量殺人者がいるのですが、これは生い立ちに理由があり、それを(主人公がピンチであるにも)吐露する場面では戦慄が走ります。同時に、ラスボスも同じく。ちなみにかなりショッキングなので(このゲームをPSで出すために、残虐描写の赤三角マークが作成されたというくらいですし)、プレイする際はご注意を。

そんな中、私がマンガにおいて、今まで一番そんな悲しき悪を感じたのは、天王寺きつね『オルフィーナ』のラスキンです。

『オルフィーナ』は、とある世界で、王女オルフィーナにそっくりのファーナが、オルフィーナの国を襲ったものを倒すために、死んでしまったオルフィーナを名乗って戦いに乗り出すという物語(序盤の展開で、これはもっと広がってきますが、長くなるので割愛)。

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オルフィーナ (1) 新装版 (角川コミックスドラゴンJr) : 天王寺 きつね

まず、『オルフィーナ』の主要人物には、その本物の王女オルフィーナ、その母で王妃のユメネア、ヨグフ王、そして王妃の家に養子として入れられたラスキンという人物がいます。あと、オルフィーナの婚約者シェタッフガルド、宰相のソブエルも重要人物(もちろん最重要はファーナですが、ここでは関係が薄いので割愛)。

さて本編でラスキンは、国を追放され、相手国に寝返り、オルフィーナの国に攻め入り滅ぼしてしまう、そしてオルフィーナ姫を捕らえ、殺すことになるというほとんど敵の親玉的存在として描かれています。ついでに攻め入られた時、ファーナを逃すために、ソブエル宰相が自決して敵を食い止めたことも覚えておいてください。

ここで見ると、圧倒的な悪がラスキンであり、悲劇の姫がオルフィーナ(本物)やユメネア王妃(この時ファーナをかばって死亡)、妻と娘を亡くした国王、婚約者を失ったシェタッフガルド、そして死んでしまった宰相ソブエルとなります。しかもラスキン、悪役らしく、その王妃の血縁である女性メルイラを監禁して、寝取ったりしてますし、憎たらしい悪以外の何者でもないように描かれます(実はこれがもっと後々の展開に繋がったりするのですが)。

しかし、これは物語が進み、ラスキンが何故こうなっているのかという過去の出来事が説明されるうちに、だんだんとラスキンの印象が変わってくるのです。先ほどのメルイラからユメネアのことを言われた時の反応と、メルイラへの執着、寝返ったと見せて、実は銃を密かにためておき、いつでも反乱できる用意をしていたこと、そして過去の出来事。そして極めつけは、番外編の『ラスキン』。ここでオルフィーナ側から見てきた読者からすれば絶対悪だったラスキンの過去が明かされます。

実はラスキンとユネメアは、共に小さい頃から育ち(ラスキンが養子に迎い入れられた)、成長してからも相思相愛だったのです。しかしとある戦乱に出かけた時、ラスキンの軍勢は全滅したことが告げられます。しかしそれでも待ち続けるユメネア。そしてラスキンはとある村で助かっていました。しかし、親友が殺されたことなどへの敵への復讐、自分と同族の村の民を守るためその村にとどまり、数年ご帰還した時にはすでにユメネアは王の后となっていました。そういう悲恋の展開があったのです。

それでも親衛隊に任命され、感情を押し殺して影からユメネアを守ろうと誓います。しかしある時、ソブエル宰相の計略により、無実の罪を着せられ、追放されてしまいます。しかもそれを直接的指示ではないにせよ排除を依頼したのは、あのオルフィーナ姫(本物)。ここだけ見ると、ソブエル宰相やオルフィーナが悪役にも見えてしまうのです。

ちなみにここも複雑で、何故ラスキンを排除したのかというと、ラスキンによりシェタッフガルドが殺されかけたから。では何故ラスキンがシェタッフガルドを殺そうとしたのかというと、これもまた複雑な事情があったりします。ここ、ラスキンが宰相たちに疎まれた理由含めて、作者の天王寺きつね氏もこれを描くと単行本1冊分になってしまうからということで割愛していましたが、推測するとここがまた深い。

あくまで私の想像が入りますと注意書きをしつつそこの人間関係などを。ラスキンはこの時点でもユメネアを愛していたけど、それを秘め続けて親衛隊として守り続けていた(これはあとの描写からも確定)。そしてどうもあちこちの描写を見るに、この時点でもどうもユメネア王妃も、ラスキンに対しての愛情が残っていた感じなのですよね。ただ、王だけではなく、国を背負って、娘を持ってしまった立場上、お互いに結ばれることどころか、その想いを出すことも出来ません。だからその思いは永遠に秘め続けようとしたと(これはラスキンも同様)。しかし両者のそれを大臣たちに薄々察しとられ、国のために、王のために隙あらばラスキンを排除しようとした(つまりラスキンは憎まれていた)。そしてその時、ラスキンを超えつつあるシェタッフガルドが登場したので、彼を親衛隊、そして後々の王として、ラスキンを排除しようとした。それに気づいてラスキンは「ユメネアを守り続けるため」シェタッフガルドを暗殺しようとした。が、シェタッフガルドを守るために、オルフィーナがラスキンを排除したと。そんな推測が出来るのです。

こう考えると、誰も悪人になりたかったわけではないのに。ただ状況がそうしてしまったという悲しい話。ちなみにラスキンがメルイラを寝取った理由も、彼女の幻影を見たゆえの行動ということ。ちなみにこの彼女、昔メルイラはラスキンが好きだったという描写もあったりします。そしてラスキン死亡後、ラスキンとの子供を産んだという話(旦那寝取られ。まあ産ませたんだから立派な人だと思いますが)。

つまり、それぞれのキャラクターにちゃんと立場があり、ある視点から悪に見えても、もう片方では層ではなく、逆に善と思われた人が悪に映るという衝撃を与えているのですよね。この作品のすばらしい点は、そういった脇キャラ1人1人にまで、ちゃんとそういう多くの方向からの視点を表現している点だと思います。それでいてキャラがよく死ぬから、天王寺作品は衝撃的なんだよなあ……

『オルフィーナ』は古い漫画、しかもファンタジーなので敬遠しがちな方も多いですが、とりあえずこのラスキン編あたりは読むことをおすすめします。ラスキン編が収録されているのは6巻(旧版では5巻)。泣く泣かないで判断するのはあまり好きではないのですが、これは泣けます。

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新装版オルフィーナ (6) (カドカワコミックスドラゴンJr) : 天王寺 きつね

☆追記(2016/5/9)

その後、続編の『オルフィーナサーガ』含めて思いもしない方向に話が広がってゆきます。現在は長年の連載を終えて完結しました。

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オルフィーナSAGA 8 (ドラゴンコミックスエイジ て 1-1-8) : 天王寺 きつね

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