空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

視聴者を騙すにはそれ相応のスキルがいると思う話

このようなエントリーが。

DeepParanoiaブログ出張所: 今年は最悪の年だった「高校生クイズ」

『高校生クイズ』といえば、私の学生時代からあった一大イベントでした。個人的にはウルトラクイズの方が好きでしたが、それにも負けない楽しさが、テレビから溢れていたような気がします。それは、変な演出がなくても、司会者以外の芸能人がいなくても。一時期まではビデオ録画していたのですが、最近は全然見なくなりましたね。それはなんだか演出が過剰になってきて、クイズが飾りのようになったあたりからのような気がします。

さて、ここで書かれているように、五味一男氏が監修に入ったことが原因の一端のように書かれていることが多いです。まあテレビもひとりの力ではないので、氏にばかり責任を押しつけられないでしょうが、ただ、こう言われる原因は思い当たります。それは最近のテレビ制作陣のお偉方(特にバラエティ系)を信用していない人が多いということ。たとえば、よくマスコミ系ニュースに貼られるコピペにこんなのがあります。

3 :■地上波民放は低学歴、低所得層のための娯楽■:2008/08/18(月) 08:58:15 id:UZqEupcO
土屋敏男氏は日本テレビ放送網第2日本テレビ事業本部
エグゼクティブ・ディレクター、第2日本テレビ(商店会長)。
Tプロデューサー、T部長で有名。

業界内の正直な意見として次のように述べている
「実は、ぼくら地上波のテレビをやっている人たちは、視聴者を信じていない
んですよ。見ている人のことを、かなりモノがわからない人だと想定して、
その人たちにどう見せるかと工夫しているんです。
ものすごく悪い言い方をすると、もう「馬鹿にどう見せるか」と、みんな絶対
にクチには出さないけれども、どこかの所ではみんながそう思っているような
フシがありますね」

http://www.1101.com/T-bucho/2002-06-24.html

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――テレビが日本の民度低下に影響しているということはありませんか。

大橋 その見方は、すごく皮相的だよ。(米国では)ビル・ゲイツ
もブッシュ家も、ニュースやスポーツ中継以外、テレビなんか見て
ませんよ。(日本も)勝ち組とか金持ちとかインテリがテレビを見
なくなっただけなんですよ。負け組、貧乏人、それから程度の低
い人が見ているんです。だから、芸能界の裏話を共有した気にな
って満足しているんです。

http://business.nikkeibp.co.jp/free/tvwars/interview/20060127005218_print.shtml

意図的な抽出の感もあるので、原文を読んだ方がよいでしょう。

でもたしかに、最近どうもテレビを見ていて、テレビの作り手との乖離を感じている視聴者というのはそれなりにいるのではないでしょうか。作り手が面白いものが作られているのではなく、作り手が、視聴者が面白いと思うものを見せられているという感じ。なんというか「楽しませるものを作ったから見てくれ」ではなくて「楽しめ」と言われているような感じ。単純な言葉にしてみれば「狙っている」といったものでしょうか。そして視聴者にはそれがありありと見えてしまい、逆にしらけると。

とはいえ、「騙す」というか「狙う」というのは間違いではありません。そして昔のテレビはその「狙う」をかなり考えこんでやっていた感じがありました。『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』なんてのは、今考えると「狙う」のオンパレードだったわけですが、それでも大爆笑できましたし。それは、制作側も視聴者が生半可な「狙う」では、ついてこないと思ったからかもしれません。じゃなきゃ、溺れる寸前までロケしたりしないでしょうし(そういえばウルトラクイズでも、本当に罰ゲーム中に、参加者が国境警備隊に逮捕されかけたことがあったらしいです)。

しかし、現代のテレビはその「狙う」を勘違いしているのではないのかとも思えるのですよね。それは「おもしろくするための要素として入れる」というものではなく、「これを出しておけば安泰」みたいな安易な考え方。それが、現代のテレビのおもしろさをかえって削っているのではないでしょうか。

どうしてこうなったかというのは、やはり(広義で)視聴者が信じられていないせいかもしれません。つまり、自分たちは面白くないけど、この手法なら多くの視聴率がとれるという感じ。でも、現実世界でもそうですが、自分のことを信じていないと感じた人を信用することは出来ないのですよ。そしてそれは口に出さなくても、だいたいの態度でわかります。今のテレビと視聴者の関係は、そんな感じなのではないでしょうか。

よく悪徳商法や詐欺などで「信用していた人に騙された」とありますが、あれはその犯人が「相手にどれだけ自分を信用できる人間か信じ込ませる」という嘘をつき通している故のものです。それと似たようなもので、テレビも真摯に向き合うのでなければ、徹底的に、それこそ誰にもわからないように嘘を突き通せばよかったのでしょう。そしてその嘘を突き通すスキルが、昔のバラエティとかにはあったと思います(川口浩探検隊とか、今見るとうさんくさいけど当時人気があったものがそんな感じかも)。そしてその当時のテレビマンには、真剣にやらないと、視聴者に嘘が見透かされるという、ある意味視聴者に対しての信用があったのかもしれません。

すごくむごい言い方をしてしまえば、現代のテレビのバラエティの制作陣は、三流詐欺師になってしまったのかと。これはもちろん制作費用や、先人があらゆる手段を使ってしまったことも原因にあると思いますが、一流の詐欺師になれないのなら、姑息な手段で騙し続けるより、真摯に向き合った方がよっぽどよいと思うのですが。深夜時代の低予算で行われたはずの『夢で逢えたら』や『笑う犬の生活』はかなり面白かったのですし。


つまり、高校生クイズはもとのように高校生が真摯にクイズに向き合うイベントに戻したほうが、堅実な視聴率がとれると思うのですよね。今回のだと、なんだか瞬間的な上澄みは増えても、次回以降、それを支持していた層が離れかねないと思うので。つか、芸能人は司会者だけで十分だと思うのですが。*1


◆追記
今年の高校生クイズに批判的な意見が多いが - 逃げの一手 CoolDriverの日記

ロケに行かなかった分の金でタレントを呼んだのは、来年以降に予算を大幅に削られないためとかかな、タレントはまったく必要なかったと思うけど。

なるほど、そういう考え方もありますね。

ちなみに高校生クイズも、福留氏時代の決勝問題はかなり難しかった記憶が。そこからだんだん低くなっていった感じ(まあそう感じるのは私が子供だったからかもしれませんが)。

*1:1人でああいう大規模なクイズをもり立てた福留氏や福沢氏の力は結構すごいと思います(勿論裏方のスタッフもですが)。あの力量がない無理なのかなあ。