フィルタリングを扱った司法試験問題でいろいろ考えてみる

ちょっと前に、おもしろい話題を見つけました。

新司法試験にネット規制の出題

ネット規制が今年度の司法試験に出題されたと聞いて探してみた。これの第1問。これはすごい。司法試験の問題なんて初めて見たんだけど、よく出来てる。

司法試験の公法系科目の問題として出されたものらしく、ネット規制をテーマにしています。

ちなみに法務省の新司法試験のページにpdfで問題が載ってますが(※追記:現在はリンク切れ)、要約すると以下のような感じ。

  • 201×年、フィルタリング・ソフト法案を策定して国会に提出し、衆参両院で可決・成立。
  • これにより、インターネットへの接続機能を有する電子機器を製造する業者は、フィルタリングソフトをあらかじめ搭載しなければならず、業者は法施行前に製造されたソフトが搭載されていない機器を販売する場合は、適合ソフトの一つをあらかじめ搭載して販売しなければならず、違反した場合は罰則。同時にその回避及び削除手段を提供してもいけない。
  • ただし使用者が18歳未満の者ではないことを所定の方法で確認した上で、適合ソフトを削除することができる(削除して販売した場合は罰則適用)。
  • Aは、平和問題と死刑存廃問題に関係する情報を無料で配信するサイトを運営。サイトには戦場の死傷者の無残な画像や公開処刑の画像等があったので、フィルタリングの対象となった。
  • Aは、大人ばかりでなく子どもも真実を知った上で問題を考える必要があるという信念のもとで本件サイトを運営(また見る人に不快感を与える可能性のある画像が表示される前に、「次のウェブページには不快感を与えるかもしれない画像が掲載されています。」という注意を促す文章を掲げていた)。故にこの規制への対抗策として、適合ソフトが搭載されていても本件サイトを閲覧できるようにするプログラムを開発して、自分のサイトから無償でダウンロードできるようにした。このためAは同法に基づき起訴された。

〔設問〕
1. あなたがAの弁護人であったとして,裁判においてどのような憲法上の主張を行うか,具体的
に論じなさい。
2. Aの主張に対する検察官の主張を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を
述べなさい。

法律のプロでも司法生でもないのであまり正確なことは言えませんが、憲法第21条の表現の自由を同法がどのように侵害しているか、事実上、同条二項で禁止されている検閲に該当するのではないかというところから、フィルタリング法が違憲であるという展開をしてゆくのが試験問題の解答としてはオーソドックスではないかと。設問2にも「憲法上の問題について」って書いてあるから、それを期待しているような気がしますし(ちなみに設問あわせだと、おそらく検察側は、「公共の福祉」に反するから、それが制限されるという展開をしてくるのかな? そして自由は18歳以上が証明できれば削除するというプロセスがあることを押し出すと。)。実際の裁判となるとはまた状況が変わってくるでしょうが。ちなみに本当にこんな裁判があれば、憲法判断のかなり深い例になって、最高裁大法廷まで行く可能性もあるかもしれません。

さて、これは試験問題です。故に設問の背景も答えを導く最低限のものにとどめられています(それでもこれだけ長いのですけど)。故に、ここではあくまで裁判上の判断が主軸であって、その背景について考えるのは要求されていません。上のはてブでも「司法試験に限らず、憲法の試験で絶対にやってはいけないのが「社会学や政治学の答案を作ること」。あくまでも「法律学の答案」を作らないと絶対に点がつかない。」と書いてありますし。ですが、ここは試験会場ではないので、面白そうだしあえてそこに突っ込んでみようと思います。

背景ですが、とりあえず法が可決するまで、この憲法上の問題について反対されなかったのか、というのは疑問に残りますが、昨今の問題ある法律が、建前を全面に押しだされていろいろ通りそうな状況からならあり得るかもしれないので、そこは通しておきます。

この法は販売業者に負担を強いるわけですが、急に販売物に全部フィルタリングソフトを入れる手間が生じるということは、前にあったPSE法どころの騒ぎではなくなるわけで、販売業者、店の大反発が予想されます。特に海外勢の反発は並ではないでしょう。デジタル放送対応テレビならばまだ海外勢が参入していないうちに仕様策定してしまったのでともかく、すでに多くの海外メーカーが入り込んでいるこの市場では、そんなことをしようものなら、その国を背景にして(人権問題を盾にして)圧力をかけてきそうな気さえします(アメリカからはMS、Apple、サンマイクロ、DELL、中国や台湾からはレノボ、ASUS等)。今、携帯の規制が話題になっていますが、こっちも本当に義務化したら、サムスンやノキアがどう言ってくるかわからないかも。

それでもどうにかして既存会社に納得して強行した場合も、中古の個人所有に対する規制はないみたいなので、おそらく搭載されていない中古だけがやけに高取引される(しかも個人間、ヤフオクなどで)ということがあり得るのではないかと。

あと、フィルタリング回避は18歳以上がそれを証明すればいいということですが、かなりザルです。というのは、別に証明した人が18歳未満に自分のを使用させてはいけないという規定はないのですよね。となると、「名義貸し」が起こりそうな気がします。ヤフオクとかに出品されたりね(まあさすがにこっちは規制されると思いますが)。

そして最大の問題は、それはこれが国内法であり、海外には適用できないということ。つまり海外をかませた場合、無効化する可能性が高いということ。たとえば機器を直輸入した場合、処罰できる対象はいませんし(個人の輸入を処罰している規定はないとする)、海外のあるサーバからプロクシ的にフィルタリングを回避するしくみ(アドレスはそのプロクシだけど、見ている内容はそのフィルタリング対象サイト)なんてのを作られてしまうと、もう手に負えないでしょう。何せ国外である以上、そのサーバを処罰する方法はないのですから。

そもそもフィルタリングソフトを消したら処罰の対象とありますが、これがわざとかどうかの証明なんて出来ません。しかも消せないとなると携帯ならともかく、パソコンならOSメーカーに頼んで組み込むしかないでしょうが、それは事実上不可能でしょう。

あと、フィルタリングの審査ですが、(これは現状でも言えますが)かなり曖昧です。しかも規制の対象になりそうなページは今までからいって、次々に移転します。となると、いたちごっこ以外の何者でもなくなるのではないかと。もし、画像や文字でオートで判断するフィルターとしたら、極論文字を書き込めるところならば、書き込みスパムによってどこでもフィルター対象サイトになる可能性もあります。さらに、あまりの規制は先述の憲法違反となり、諸外国からも批判される対象となりかねません。特に、試験問題の死刑廃止サイト裁判が海外に報じられれば、外国の人権団体がこぞって非難声明を出すでしょう。

つまり、いちいちフィルタリング回避ソフトを国内でを提供するまでもなく、実際にはザル法となり、抜け道だらけになる気がするのですよね。まあ携帯だけなら改造も難しいし、販売元も限られるので、ややそれらしいことも可能かもしれませんが(それでも抜け道はいくらでもありそう)。まあ、ザルになるからといってとんでもない法が出たときに放っておけというわけでは全然ないですが。それに至るまでひとりでも犠牲者が出てしまう場合は特に。PSE法も現在は改正されたようですが、それまでの間に店をやめてしまった人はいるわけですし。

もう一度いいますが、これは単に問題でいろいろ延長戦を考えて遊んでいるだけで、試験問題は試験問題でしかありません。しかし総じて、これらの答えさせる問題点も含めて、非常におもしろい問題だと思います。でもこれ、もしかしてWinny裁判をやや考慮に入れている感じもするなあ(ソフトの配布あたり)。

新しい法律を考えるときは、それが思った通り正常に運用されるのか、それともこういった要素でザルになったり、または全く別の作用をしてしまうのか考えるのは面白く、そして重要だと思います。

スポンサーリンク