空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

何故同人誌即売会の大手サークルには行列が出来るのか、そして何故必ずしも書店卸をするわけではないのか

そろそろコミックマーケットです。そろそろカタログも発売のはずですので、行く予定の方はそっちの検討を始めている方も多いのではないでしょうか。しかし夏のコミケはその日の天候にもよりますが、温度や日差しによる体調の悪化の可能性が大きいので(熱中症、脱水症状、日射病、過度の日焼け等々)、その手の対策、すなわち帽子、飲料、タオル、日焼け止めはきちんとしておきましょう。特に、行列待ちの時のこの手の攻撃は強烈ですので(あと、雨対策もね。傘が役に立たない場合もあるので、普段着ない人でも、安い雨具を買ってゆくと、とんでもないところで役に立ちます)。だけどこうして書くと、ほとんど軽い登山程度の装備だよなあ……まあ歩行距離とか似たようなものがあるけど。

そんな体力を消耗するコミケの行列ですが、参加者、主に購入を主目的とする一般参加者が遭遇する行列は主に4種類あります。1つめは交通機関を利用するための行列、2つめはトイレのための行列、3つめは会場入場前の行列。そして4つめは、購入のための行列です。


さて、この手の行列、何故出来るか考えたことがおありでしょうか。単純な答えは、それを利用するための窓口の数&処理能力よりも、利用者が多いためです。1の交通機関の場合、切符購入や改札、そして乗車で行列が出来ますが、これは言わずもがな、切符自動販売機や改札、そして電車の本数や定員がよりも、利用者の方が多いためです。そしてトイレも同じく。かなりの数が用意されていますが、それでも長者の列が出来ます。故に、トイレに行きたいな、と思う前にあらかじめ行っておくことが大事です。ひどい時だと1時間近くとか並ぶみたいですから(冬場は特に)。そして会場前の行列も、その会場に対して人を入れても大丈夫な人数&速度以上に人が多いので、入るまでに時間がかかります。これらは現状では、今以上に列を短くすることは非常に難しいのですよね。改札や券売機、トイレを増やすのは、コスト的に莫大な金がかかります(仮設トイレの場合、スペースの余裕もある)。ましてや駅の場合、臨時券売や改札口を増やしてもあの混雑ですしね。そして会場への入場も、今以上のスピードで入場させたとなると、事故が起きる可能性もあるので人数に対してこれ以上の早さで列を消化することはほぼ出来ないでしょう。

さて、ここからが本論。それでは4つめの行列、それはサークルに対して購入するための列はどうなのか。コミケなど同人誌即売会の列と言えば、これらが一番思いつくところではないでしょうか。実際に並んだ方は、よほど並ぶこと自体が好き、という人以外は、この行列に不満を持っている方も多いと思います。でもこれも、同じ理屈なのですよね。つまり、窓口&処理能力より需要のほうが多い、すなわち、売り子とその処理スピードよりも、ほしいと思う人が圧倒的に多いため、人気のサークルには大行列が出来ると(ちなみに前に『行列の長さから販売数の比較を行うことは出来ないという話』でも語りましたが、必ずしも行列の長さで売り上げの比較を出来るわけではないので念のため)。
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さて、そこで思う方もいるでしょう。ではその列を短くするため、そしてすぐに買えるようにするために、処理能力を増やすか、窓口の数を増やせと。でも、事実上それは無理です。処理能力は人間である以上、どんな熟練の人でも限度がありますし、窓口は即売会の性質上、すなわち、そのサークルも1スペースが原則という性質上これ以上増やせないのです。しかも超大手の場合、混乱を避けるために特例で2スペースを使っている場合も多いですし、そうなるとせいぜい窓口は4つが限界ではないでしょうか。出来ることと言えば、せめておつりでのタイムロスをなくすためにきりのいい値段にするか、販売数をあまり多くしないことくらいでしょう。

こういう話をすると昔から言われるものがあります。なら、『同人誌販売店に卸せ』というもの(これは列への文句より、売り切れに対しての文句の方が大きいですが)。実際、そうしているサークルもあります。しかし、全部のサークルがそれをやるとは限りません。これは別に、希少価値を高くしてプレミアをあおっているわけではありません(まあ多くのサークルがありますから、そういうところがあってもおかしくはないですが)。私はそういうサークルではありませんが、それ以外の理由がきちんとあると考えられます。推測と聞いたことのある話を含め以下に書いてゆきます。

ひとつは、お金とスペースの問題。何かの影響か、コミケの大手はマンションが買えるほど儲かるなんて思っている方もいらっしゃいますが、そんな人は手で数えられるほどではないかと。このへん、前に『1回のコミケでひとつのサークルが売れるであろう最大数を計算で割り出してみる』で計算しましたね。
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仮に、マンションを買えても、それはそのほかでやった作業での収益を加えてのものでしょう。そうなると、年に数回の作業でもうけているわけではないのですから、ただ仕事が絵描きになっただけで、個人事業者と大差ない気がします。話がそれましたが、大手といえど、普段は普通の社会人である場合も多いのですよね。ですが、書店の委託というのは基本的にあくまで「委託」であり、売れなかったら戻ってきます。となると、書店に卸すために多く刷っても、万が一それが売れなくて戻ってきた場合、その印刷経費の分儲けが少なくなる、もしくは赤字になるだけではなくて、それを置くスペースがないのですよね。このへんは、委託じゃなくても『そんなに早く売り切れるのだったらもっと刷れ』的な意見にも通じるところがありますね。好ましいことではないですが、コミケで売れ残った本を捨てて帰ったという人もマンレポあたりで書いてあったことがあるのは、そういう家の置き場的な事情があるでしょう。


ふたつめは、上に関連しますが、手間の問題。書店委託はそこで電話一本で完了、というわけにはいきません。その書店との契約や、印刷、そして発送の手間がかかります。休みが即売会と同人誌制作でいっぱいいっぱいになるような人は、そうしている時間もないと考えられます。

3つ目は、所得の問題。年に20万円以下の儲けであれば、基本副業でも課税の対象にはなりません。しかし、委託するとそれを超えてしまうという場合も多々存在します。税金を払うことよりも、その深刻の際の手間を嫌う人はいるはずです(確定申告をする人はわかると思いますが、かなり面倒なのですよね、申告で要素が増えると)。

そして4つめは会社の都合。よく言われるのは、会社が同人誌の委託を禁止しているというもの。これもありますが、同時に一般の会社員でも同じように影響を受ける可能性があります。というのは、まだ同人誌即売会に対してよいイメージを持っていない会社(人)はあるのですよね。そうなると、隠密同人なんてのをやっている人もいますが、書店卸をすると、税務その他のものによって、それがバレる可能性が出てくると。

そして5つめ。あくまで同人活動は即売会の範囲内でおさめるものだという考えを持っている場合。つまり、書店委託は同人の範疇から外れるから、書店卸をしないと考える人もいるのですよね。あくまでお祭りはそのお祭りの範囲内でというか。これが主要因という人もけっこういるでしょう。


これらの要素のひとつではなく、総合的に考えて書店卸をしない人はけっこういると思うのですよね。故に、行列が出来て、書店卸ししても売れそうに購入参加者から見えるサークルでも、実際はいろいろな要素を加味して、そこまですることは出来ないというところはそれなりにあるはずです。*1


同人誌即売会でみんなが参加者というのは、サークルは店や企業のような特別な存在ではなく、みんなこのように一般の人の集まりだということでもあるのではないかと。購入者としては大手サークルも企業での販売物も買える、買えないの面に関しては同一に考えがちですが、それをしてはいけないのではないかとを思います。企業と個人の差は、非常に大きいのですから。

ちなみに個人的には、「縁がなかった、まあそのうち機会があったら読めるさ」と思えるようになると、また即売会に対して別の楽しみが生まれると思います。

*1:ついでに、『大手サークルだけ隔離しろ』という人もたまに出ますが、そういう人は”A館体制”でぐぐってくださいませ。