著作権侵害の非親告罪化では、著作権者と取り締まる側も被害を被る可能性がある

現在ダウンロード違法化と著作権違反の非親告罪化について様々な議論が交わされ、現在、文化審議会著作権分科会「私的録音録画小委員会」の中間整理で一般から意見を公募するパブリックコメントの受け付けが行われています

文化庁「ダウンロードは違法、著作権侵害は告訴無しでも逮捕、異論は聞いてやる」 パブコメ受付開始

■参考・文化審議会著作権分科会法制問題小委員会に対するパブリックコメントの出し方

何故ここまで話が盛り上がっているのかというと、これは著作権を悪意で侵害しているものだけではなくて、一般のユーザーにとってもそれまで合法(もしくは黙認)とされてきたものでも違法となる可能性があり、ひいては文化を発展どころか萎縮させてしまう可能性が高いからでしょう。本来、文化を守るための法改正であるはずなのに、それが本末転倒になりかねないという状況。とうかそれ以前の問題として、現在の技術を理解していない(ストリーミングとダウンロードの違いとか)ので、全く現実的ではないという意見も多数見ます。

しかし、この現在判明している法律で被害を被るのは何も一般ユーザーだけではなくて、本来恩恵を受けるはずである著作権者、そして取り締まる側までもが不利益を被る可能性があるのではないでしょうかと思ったのです。今日はちょっとそっちに触れてゆきたいと思います。


まず、著作権者の被る不利益について。ちょうどのタイミングで、このような事件が起こりました。

ニコニコ動画が明らかにしたダウンロード違法化・著作権侵害非親告罪化の問題点


上のリンク先の事例では、アマチュアバンドが自らの宣伝のためにアップロードした動画を、ニコニコが誤って著作権違反のものと判断して削除してしまったという事例です。これは、言ってみれば、本来公開することで利益(広報)を得ることの出来る著作権者が、このように本来得ることの出来た利益を阻害されたと言えるでしょう。
しかしこのようなことは、法律がこのまま成立したら日常茶飯事になりかねません。映像に限らずとも、アップロードされたものが現実的にすべての著作権を把握するのは不可能です。ならばもし著作権フリーとしてアップロードしているようなものでも、みなし違法とされてしまい、その広報が出来なくなる可能性が高いのです。現在特定の会社が自らYouTubeにCMなどを載せている場合が多いですが、配信元が慎重になってしまえばそれもできなくなる可能性があるのです。

ちなみにこれ、実はインターネットだけではありません。雑誌の記事やテレビ番組でももし許可されていないものを映した場合、それが著作権の侵害行為となる可能性だってあるのです(「報道の自由」とのバランスがどこまで取られるのかは不明ですが)。逆に言えば、ライバル会社を陥れるために「著作権のあら探し合戦」なんてものが始まる可能性があります。だけどそこまで一切のミス無くできる会社がはたして存在するでしょうか。数が多い分、サブマリン特許を探し出す苦労の比ではないと思います。

さらに、ゲームミュージックはよくテレビなどでも最近使われていますが、JASRAC登録対象外なので、本来は使用に際して各メーカーに問い合わせ許諾を得るる必要があります。まあ実際はどっちも手間なのでやってない場合が多いでしょう(少なくとも私の知っているところの曲が流れたことはあるけど、そこがTV局から連絡を受けたと聞いたことはない)。現在はほとんどのメーカーが「黙認」しているからだと思います。しかし法律制定後、もしこれを許可無く使った場合、全く関係ない第三者の通報によってそのテレビ局自体が違法行為者となってしまうことがあるのです。そしてその第三者はそこに敵意を持つものということもあり得ます。


さて、このように著作権者、それは本来の作り手からパブリッシャーに至るまで被害を被る可能性を書きましたが、実はもうひとつ、この法律で大変なことになるところがあります。それは「取り締まる側」の人たち。

大学時代の刑法の授業で、こんな話を聞いたことがあります。曰く、「警察の機能を合法的に奪う方法は、どこでも必ず落ちていそうなところから1円を拾って、それを交番に届ける。そしてその書類を必ず書いてもらう」というもの。これは法律上は拾得物を届けると、それに関しての書類を作成しなくてはいけないため、それを要求するということですね。まあ実際はご存じの通り小銭程度なら「交番で預かって、お巡りさんのサイフからお駄賃に同じ金額をプレゼント」という八方が丸く収まる処理をしてますよね。そして実際に書類を行わなくても、誰も文句を言いません。現実的なうまいシステムだと思います。しかし、実際に法律を厳密に守ってそれをみんなが行えば、全国の交番の機能が麻痺してしまいます。まあ法律の想定外に生じた落とし穴ですね(ちなみに故意に落としたもので上のような行為をした場合などは、おそらく公務執行妨害になりますので念のため。あと、妨害目的でやったという意思が証明された場合も同じく)。

だけど、この1円玉と同じ現象が、著作権侵害の非親告罪化で起こってしまう可能性があるのです。つまり、第3者が著作権侵害を見つけたとします。そしてそれを通報すると、警察は業務的に動かなければいけません。もし意図的に動く、動かないを選択してしまうと、「警察権力の恣意的運用」との非難が湧き起こる可能性があります。しかしただでさえ人員不足の警察に、そのような、現実的にはひとりの欲しか満足させないかもしれない負担まで割り当てるのはあまりにも酷ではないかと。

あと、悪意の「著作権侵害申告スパム」が起きる可能性も否定できません。つまりささいな、本当に侵害なのか黙認なのかわからないような状況でも通報して、その業務で本当に違法なものを取り締まることが出来なくなるような状態です。
つか、もしこのような悪意の通報がなかったとしても、現在の違法アップロードを処理するだけでも人手が足りるのか疑問です。違法なアップロードを処理しきれていないのは、何もダウンロードを撮りしまる法律がないだけではなくて、その捜査に関しての人手不足ということも言えるでしょう。


さらに言えば、著作権者もそこを離れればほかの媒体の著作権のあるものを使用することを忘れてはなりません。まあ、うちは違法をしていないから、と普通の人(企業)は思うでしょう。しかしこと著作権に関しては、知らず知らずに触れている場合があるのです。

おそらく著作権侵害を厳密に解釈すると、誰も気付いていないものでも引っかかるものがあると思うのですね。そういえば数年前まではgif特許とかzip特許、mp3特許なんてのもありましたよね。あとSCO裁判(Linuxを使用している顧客にも費用を請求するという不条理な裁判。当然敗訴&IBMから反訴)なんてのもあったなあ……つまりそれらみたいな技術を使っていればアウトの可能性もあると。
極論、メーカーのページで商用禁止のフォントが使われている場合でも、著作権侵害となる可能性がありますから(というかフォントやフリーソフト配布条件も、前述の著作権者の権利と照らし合わせると非常に面倒なことになる可能性もありますな)。


さて、こう考えるとこのまま法律を制定しても実際はPSE法のように有名無実化する可能性が高いのではないでしょうか。となると、この法律が死んでしまい、本来取り締まるべき誰が見ても明確にダメと言える製品をアップロードする人も看過してしまう可能性が出てくるのです。


ま、なんでこんな状況が想定されながら、法律が制定されようとしているのかというと、一方向だけを見てあらゆる事態を想定していないからのような気がします。まさしくPSE法と同じ感じで。
それに「利用者全員を犯罪予備軍としか見ていない」ということも問題なのではないでしょうか。これの姿勢で日本の音楽配信はiTunes Storeに負けたっていう見方もあるのに……


しかし以上のように考えると、この法律の改正、得する人はいるのでしょうかね?なんだか回り回って結局は現在賛成している人の首を絞めるような気がしてならないのです。歴史上こういうことは多々ありました(経済とか特に)。最近ならプロ野球の制度とかかな?

私も著作権者(作り手)が嫌がる違法ファイルの流通は規制すべきだと思いますが、いきなり問題だらけの法律を制定してあとで困るより、狭くても確実な範囲での規制(著作権者から通報があったソフトなどの違法アップロードに対する取り締まり)にとどめておくべきではないでしょうか。

まだ10年しか経っていないのにインターネットがこんなに発達したように、技術なんてものは少し時が経つだけで予想できない変化をするものなのですから、法律もそれに則すべきではないかと思うのです。